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85.主夫の1日5
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「そうそう!この人、ヴァイオリンの演奏をしているんだって」
「へ~!」
「そういえば、なんとなく見たことあるねえ」
「テレビに出ていないかい?」
テレビ……。
「そんなに出ていませんよ」
「そんなにってことは出ているんだね」
おばあちゃんたちは嬉しそうに話を盛り上げる。
「すごいねえ。今日は?仕事は?お休みかい?」
「えっと。この通りでして」
圭は左腕を見せる。
左腕の包帯を見て、おばあちゃんたちは一様に驚きの表情を見せる。
リアクションが大きいところが面白い。
「関口さん。この間の廃品回収の手伝いをしてくれて。それで怪我しちゃったのよ」
「それは大変じゃない!」
「商売道具みたいなものでしょう?」
「あの。えっと。ちょうどよかったんです。休めましたから」
「そうよねえ。テレビに出るくらいだもん。忙しいだろうし」
「そうでもしないとお休みも出来ないんでしょうね」
勝手に納得して、彼女たちは頷く。
そして。
話題は一番気になるところへ。
「で、関口さんは結婚しているの?」
来た。
「いえ」
「でも。それ」
しまった。
左手の薬指。
金色の指輪が光っている。
「あの。これは。結婚指輪まではいかなくて」
言い訳がましい。
「確かに。今の若い人って結婚してなくても婚約みたいな指輪をすることもあるんだよね」
「なるほどね」
「で、彼女と一緒に住んでるのかい?」
「小さい男の子は見たことがあるけどね」
蒼のことだ。
よく見ているものだ。
近所の目とは侮れない。
「弟さんかい?」
「いえ。あの」
視線を上げると、みんながみんな興味の視線で圭を見ている。
目が皿のようになっているのが恐い。
苦笑する。
「友人なんです。一緒に部屋を半分こにしていて。」
圭の言葉におばあちゃんたちはお互いに視線を交す。
「今時の若い人は面白いことをするもんだね」
結局は、若い人と言うものがどういう人種なのかわからないのだろう。
適当な言い訳でも納得するらしい。
「へえ」とか、「ふうん」とか言っている。
なんだか可笑しな雲行きになってきたし。
そろそろおいとましたほうがいいようだ。
圭は「ご馳走様でした」と言葉を機に頭を下げる。
「どうも、それではそろそろ失礼します」
「もう行っちゃうのかい?」
「なんだか残念ね」
「忙しいんでしょうけど、たまには遊びに着てね」
もうすっかりお茶飲み友達に入れてもらったらしい。
「そうだ。今度、元気になったら集会所で演奏してもらうって言うのはどうかしら?」
「でも、ギャラ払わないといけないでしょう?」
ちらりと横目で見られても。
無料でやれと言うことだろう。
休みの日にでもやればいいことだし。
「もちろんです。せっかく、この地区に住まわせていただいたんですから。みなさんのために出来ることはやらせてもらいたいです」
それだけ言い、彼は頭を下げて退室する。
梅津さんが玄関まで送ってくれた。
居間では「若いのにしっかりしているね」とか「いい男だね」とか話している。
話題提供者としては十分だったろう。
圭は苦笑しながら梅津さん宅を後にした。
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