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88.乱入者登場5
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「あいつが?」
台所に立つ、圭はおたまを持ったまま笑っていた。
「笑い事じゃないよ~」
「そうか?いいじゃないか。面白い」
「圭!」
人事だと思って。
蒼は膨れる。
「世界的なマエストロと競演だぜ?そんな名誉なことはないじゃないか」
「そこが問題なの!」
「どうして?」
「だって……。そんな有名な人なのに。おれたちなんかじゃ釣り合わないって言うか……」
蒼の心配はよく分かる。
自分だって、圭一郎と競演なんて心の底では畏怖していたのだから。
「いいじゃないか」
「へ?」
圭は味噌汁の火を止め、そして隣で魚の盛り付けを手伝っていた蒼を見下ろす。
「星音堂職員はプロではないんだから。完璧にしなくてもいいんだ。やることに意味があるって考えてみたらどうなの?」
「でも……」
「こんな機会は滅多に訪れないよ?いいの?逃して」
それは。
そうかも知れない。
素人の自分たちが、彼と競演なんてありえないことだ。
「大丈夫。あいつは音楽に対する姿勢は真面目だ。だからこそ、完璧なものを作りたいと言う思いもある反面、音楽は楽しむものだって知っているから。蒼たちの力量に合わせて、きちんとやってくれると思うよ」
自分たちの力量。
それはそうだ。
圭のように、それ自体を生業としている人たちと自分たちは違うのだ。
だからと言って妥協は許されないが。
自分たちが自分たちで出来ることを頑張るしかない。
それは圭一郎であっても、違う人でも同じことだ。
お客様に聞いてもらうのだから、誰と競演しようと、一生懸命やらなければならないことには替わりがないのだ。
「そ、そうだよね」
「蒼は素直でよろしい」
圭は蒼の頭をぽんぽんと撫でる。
「ご飯食べよう。昨日の続きから練習だ」
「うん」
盛り付けの終わった皿を持ち、居間に向かう。
途中で、けだもの攻撃に遭うが、かろうじて交す。
「もう、本当にどうして、こんなにいやしい子になっちゃったのかな?」
蒼は魚を狙って飛び掛ってくるけだもを見てため息を吐く。
「蒼に似たんだろう?」
「ええ?どういうこと!?」
「飼い主に似るって言うじゃないか」
お盆に味噌汁を載せた圭は苦笑する。
「失礼しちゃう!」
「そう怒らなくてもいいじゃん」
「だって……。じゃあ、気分屋なところは圭に似てるってことだね」
「気分屋って……」
圭は笑う。
「確かに。おれは気分屋かも知れないな」
「あ!認めた」
食事の準備を終えて、向かい合って座る。
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