アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
98.剔抉9
-
「先日。圭一郎のコンサートがあったとき、我々も招待されたから、足を運んだんだが……。あのコンサートの主催が羽根田になっていたからね。もしかしてって空と心配していたところだったんだよ」
「父さんは知っていたの?」
「蒼も知ってしまったのね?」
空の言葉に頷く。
彼女はため息を吐いた。
「悪い人ではないのだけど。情に厚い人なの。自分の血を引いている子供がいると知ったら、絶対にアプローチしてくると思っていたから危惧はしていたのだけど」
栄一郎は申し訳なさそうに蒼を見る。
「最初から知っていたよ」
「父さん」
「私が求婚したときに、空はなにもかも話してくれたんだ。そういう事情だから結婚できないって。だけど、それでも私と連れ添って欲しいと誘ったのは私だからね」
「……」
「空が入院した時。このまま蒼を自分の手元で育ててもいいものかどうか迷った。本当の血のつながりのある羽根田さんに任せたほうがいいのかどうか。だけど、身を切る思いで、彼のもとから姿を消した空の気持ちを考えると、それもどうかと思ったのと、蒼を自分の手で育てていきたい、そういう責任があるのだと思う自分のエゴとで葛藤して、私は自分で蒼を育てることを選んでしまった」
「そんな!おれの父さんはあなたですから。突然、現れて自分の父親だなんて名乗られても。本当に困ります」
「でも、事実。親子は親子だ」
そうかも。
そうかもしれないけど。
親子ってそういうものなの?
気持ちとか、情ってあるよね?
自分の父親は……。
嫌だといいながらも、こうなると、自分は栄一郎を選ぶのか?
おかしいことだと思った。
「蒼には内緒にしていたわけではないのだけど。私も入院してしまっていたから。話をする機会もなかったの。それに、私は、栄一郎さんが蒼のお父さんになってくれるって、はっきり約束してくれていたから。いまさら、逢うかどうかもわからない羽根田のことを話す気にもなれなかったの」
でも……。
「でも、運命って切っても切れないものなのね」
「まさか、羽根田さんが、この町に戻ってくるなんて思ってもみなかったからね」
「まさかね……って栄一郎さんとは話をしていたのだけど」
「遺伝子が同じだと惹かれあうのかな?」
そんな悠長に話している場合ではないだろう。
蒼は二人の様子に違和感を覚える。
「そ、そういう問題じゃあ……」
「おいでって言われたのかい?」
栄一郎は瞳を細めて蒼を見る。
図星で言葉に詰まった。
栄一郎と空は顔を見合わせてため息を吐く。
「やっぱり」
「そうだろうと思ったよ」
わかっていたのに。
自分には黙っていたの?
蒼は言葉を失って二人を見る。
「戸籍上は私の息子になっているが。選ぶのは蒼だよ」
「父さん」
「蒼。急に。そんな決断をしろって言うのは酷だけれど……」
空も辛そうな顔をしている。
なに?
結局。
自分で決めないといけないの?
蒼は期待外れの両親の態度にショックを受けた。
『蒼は家の子だよ』
『熊谷の家にいていんだよ』
そう言ってもられると思っていたのに。
自己責任で決めろって言うことなの?
「父さん……」
急に見捨てられた感じがした。
「蒼」
「もういいです」
「蒼?」
「一人で考えます」
蒼はとぼとぼと居間を出る。
「蒼?」
空たちは心配して玄関までついてきたが、なにも聞きたくない。
蒼は熊谷家を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
756 / 869