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101.素性1
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ぼんやりしていた。
今日も一日が始まるのだ。
机に座ってぐだーっとしていると、突然。
扉が大きく開く。
びっくりして体を起こすと、メガネを擦りあげた女性が立っていた。
「また!まだ準備できていないんですか?あと5分で出発ですよ」
「……すみません……」
グレーのスーツに白いブラウス。
右手には端末タブレットを持っている彼女は鬼のようだ。
「本日の予定をお伝えいたします」
「あの。奥川さん。もういいです……」
「あなたがよくても、これは私の仕事です!させてもらわないと困るんです」
「でも……」
どうせ、一日中、彼女がついてきて自分の段取りをしてくれるんだからいいじゃないか。
「蒼さん!?そういういつまでも、いつまでも甘えたことを言ってもらっては困るんですよ。こんな私ですが歴とした人間です。体調を崩したとき、ご自分でスケジュール管理できるんですか!?」
体調なんか崩さないでしょう。
この人……。
蒼は大きくため息を吐いた。
ヨーロッパの家屋はなんだか窮屈だ。
石が基調だからだろうか?
蒼にとったら息が詰まってしまいそう。
まだまだ寒い季節なのに、窓を開け放っているのを見て、奥川は顔をしかめる。
「私が風邪を引くとしたら、蒼さんのせいですね」
「……すみません」
バチンっと窓を閉め、彼女はさっさと仕事に戻る。
「本日はこの後、音楽祭の打ち合わせに入ります。お昼は、その責任者との会食。午後は、フランスに飛んで、夕方から新しいヴァイオリニスト発掘プロジェクトの打ち合わせ。その足で、別件の打ち合わせが二つ入ります。帰宅は24時30分を予定しております」
「……」
頭が痛む。
ますますやる気がなくて蒼はげっそりと机に突っ伏した。
「蒼さん!時間ですがッ!」
奥川に急かされて、蒼は渋々席を立つ。
そして大きく背伸びをした。
ふと視界に入った空は青々していて清々しい。
明るい空が眩しすぎて、蒼の気持ちを余計に曇らせた。
蒼の指に金色の鈍い光が輝いた。
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