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101.素性6
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「あのぉ、私もいいんですか?自己紹介……」
最後の娘がおずおずと手を挙げる。
「そうだったね」
羽根田は苦笑して、彼女を見る。
蒼もつられて視線を戻した。
「羽根田久瑠美(くるみ)です。19歳……。幼稚園の教諭を目指しています。今は家から通っていますけど……」
一番地味かもしれない。
彼女は気恥ずかしそうに蒼を見る。
「よろしくお願いします」
「これが羽根田の一応の家族だ。娘たちにも君のことはよく話をしているから。よろしくね」
羽根田は笑う。
いつもの穏やかな雰囲気だ。
なんだか、つい、引き込まれて笑顔になりそうになるけど、はっとする。
そういう場合ではないのだ。
自分は。
悠長に自分の立場を受け入れられるほど、人生悟ってはいない。
蒼は表情を引き締める。
「私は、君に無理やり社長の椅子に座ってほしいとは思ってはいないんだ。財閥だから、世襲をしてきたけれど。いまどき、そういうのってどうなのかなっても思っているんだ。実力がある人であれば、羽根田の血を引いていなくてもいいのかなって。そう思ってもいるんだけど……」
だけどね、と羽根田は言葉を濁す。
蒼は黙って話を聞いていた。
「まあ、蒼には、羽根田の仕事を少しでも覚えてもらって。私の力になってもらえると心強い」
「おれなんか、力になれるかどうかはわかりませんが……」
「これからの話だから。気負わなくていいよ。蒼のやり方でやってほしい」
「……」
「お父様、一緒に住むことになるの?」
久瑠美が恥ずかしそうに顔を上げる。
「いや。蒼はヨーロッパに行ってもらうんだ」
「へ!?」
ヨーロッパ!!?
蒼は目が点だ。
「うちはね。ヨーロッパでもクラシック音楽家や美術系の芸術家たちのサポートなども行っているんだ。その部署の責任者になってもらいたい」
「でも……」
海外での仕事なんて。
自信がない。
音楽とかも星音堂で、聞きかじっている程度だ。
そんな程度で、本場のヨーロッパでの活動を展開する責任者だなんて!!
一瞬にして、肩に重いものが伸し掛かる。
「大丈夫。奥川くんつけるから」
「お、奥川さん……」
メガネを擦りあげてふんとしている彼女を思い出す。
余計にげっそりとした。
「……」
羽根田はにこにこだ。
「私は、君と無駄に会っていたわけではないのだよ?」
「?」
美紀が笑う。
「この人の人を見る目は精確よ。長年連れ添っている私がいうのだから間違いないわ」
そう言われても……。
「ヨーロッパに行ったら、謙遜という言葉は忘れたほうがいいからね」
「……はい」
……甘くはない!
蒼はそう思った。
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