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113.変革のとき8
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悩んでいる人もいれば、すでに決めている人もいる。
星音堂は岐路に立たされている。
大好きな鉢の手入れをしながら水野谷はため息を吐く。
隣で晩酌の付き合いをしている妻は苦笑した。
「珍しいね。ため息なんて」
「そうだな。そうかもしれない」
「ここ何年も?何年もないんじゃないの?」
「そうか?」
「星音堂に勤務してから、随分、楽しそうにしていたもの」
「そうだな」
彼はメガネを擦りあげて苦笑する。
「あのお荷物連中にはため息ばっかりだったけどな」
「でも楽しかったのでしょう?」
「そうだな」
彼はクリスマスローズを眺めながら表情を和らげた。
「さみしくなるわねえ。あの星音堂の雰囲気が変わってしまうのは。それに、あなたも大変ね」
「仕方ないな。市役所職員としての人生を選んでしまったのだから……」
「それはそうだけど」
「まだまだ。市役所に戻ろうってやつもいるだろうし。もう少し面倒をみてやらないとな」
「誰が戻るのかしら?」
「そうだな。おれの予想では、三浦と吉田は戻るだろうな」
「若いものね」
「そうだなあ。ただ、わからないのは尾形や高田さんだな」
「家庭もあるしね」
「難しい問題だ」
日本酒を眺めながら、妻は笑った。
「人生ってわからないものね」
「本当に」
「だから面白いんでしょう?」
「そうかもな」
彼女はそうだと話題を変える。
「そういえば、あの退職した子ってどうなったの?」
退職。
蒼のことか。
妻も星音堂のことはよくわかっている。
蒼のことも理解しているのだ。
「元気にしているようだ」
「連絡は?」
「この前、久しぶりに連絡があってね」
「あら!本当?」
「元気そうだ。うん。いいことだ」
「なによ。意味深ね」
「うん……大したことじゃないさ」
水野谷は鮮やかなクリスマスローズの赤を見つめて、苦笑した。
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