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元近衛兵の青年
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レオの背後に立つ魔族は、褐色肌で短い銀髪、眼の色は紫の、見たところまだ17歳~19歳の青年だ。どうやらゼルの仲間のようで、レオは前後敵に挟まれてしまった。
レオはその場で固まり、勇は絶望した表情でレオに動けるうちに早く逃げて欲しいと目で訴えかけている。
しかし、その魔族はレオを通り越し、スタスタとゼルの目の前までやって来て話始めた。
「確実に王子を仕留めよとの命令だろ? おれはお前の悪趣味に付き合っている暇はないんだ。」
「……監視員のあなたがそう言うから従うが、もっと楽しませてくれてもいいじゃないか。」
「危険なお前をあまりルールに縛り付けると共和国内で悪さをしかねないから多少目を瞑ってきたが、そのいたぶり方は目に余るものがあるぞ。」
「おっと、人聞きが悪いじゃないか。終身刑の私を救ってくれた共和国には忠誠を誓っているつもりだよ? 国内では大人しくするさ。」
ゼルとその監視員の会話を聞いた勇は、我慢できなくなり声を出した。
「お前らふざけるなよ…… レオが元王子というだけで孤独を強いたり、流刑にしたり……今度は命を貰うだと……?」
「汚い大人の都合で勝手に子どもを振り回すなよ……! レオが今までどんな思いで生きてきたか分かってるのかよっ!」
監視役の青年は、勇の言葉を聞きポツリと言った。
「分かってるさ……。」
ゼルは監視員の言葉に首を傾げ、思わず聞き返した。
「今なんと?」
「いや、なんでもない。俺も手伝うから早く任務を終わらせて帰ろう。」
ゼルは監視員の言動に違和感を覚えつつも、指示通り早く任務を遂行することにした。
「ちょっとそのやかましい人間の口でも塞いでてくれ。」
人質の勇を監視員に任せ、ゼルは無抵抗なレオを一思いに突き刺そうとした。
「情の厚い監視役がうるさいので、一突きであの世に送ってあげますね王子。」
「レオ!!」
勇が悲痛な声でレオの名前を叫んだ直後、状況は一変した。
さっきまで固まっていたレオが素早く動き、接近してきたゼルに回し蹴りを食らわした。
ゼルはとっさに受け身を取ったが、レオの怒りのこもった蹴りの威力に耐えられず、激しく吹き飛んだ。
「きっさま……! 私に反撃したなっ…… せっかくあの人間だけは生かしておいてやろうと思ったのに……仕方あるまい。そこの監視員は相当な手練れだぞ! 2人掛かりで貴様らを……ん? なに!?」
なんと監視員の青年、勇の繋がれた鎖を外して、傷の応急処置までしている。
「な……なんだこれは! どういうつもりだ!」
ゼルは予想外の状況に思わず取り乱した。
「すまん、おれ実は王党軍のスパイとして共和国内で諜報活動と王族の生存者を探す任務に就いているんだ。しかも王子とは旧知の仲で、お前を攻撃するタイミングを王子に目で合図を送っていた。」
「ス……スパイだと……!」
一気に形勢は逆転して、レオは足や肩に深い刺傷をしているにも関わらず、怒りに任せてゼルに飛びかかり、拳で激しく殴打した。
「お前は絶対許さない……! よくも勇をあんなに傷付けてくれたなっ!!」
なかなか殴り収まらないレオを見た勇は言った。
「レオ……もうその辺で大丈夫だ。そいつ気絶したっぽいし。」
レオは勇の言葉に冷静さを取り戻し、ゼルから離れて勇を小さく抱きしめた。
「勇……。巻き込んじゃってごめんね……。こんなにぼろぼろになって……。」
「レオは命をかけておれを守ってくれようとしたんだ。こんなに愛されてるおれは幸せ者だよ。レオの方こそひどい怪我……。早く治療しなきゃ。」
「あの、お熱いとこ申し訳ないけど……。」
「あっ! す、すいません。 さっきは助けてくれてありがとうございます。えっと……あなたは?」
「おれはナギ・グレナディア。元エナ王国近衛部隊の兵士で、レオの最も近くにいたやつさ
。ゆっくり自己紹介したいところだけど、2人とも重症だ。まずは静かなところで治療しよう。持参した医療キットだけでは足りないかもしれないけど、その傷は病院だと大事になる。」
「なら、家に行こう。まだ人通りが少ない時間帯の今のうちに。」
「勇の家なら最短ルートも知ってるし、そうしよう。でもナギ、あいつどうする?」
「ああゼルか。処置は後ほど考えるとして、とりあえず鎖に繋いでここに幽閉しておく。」
ナギは慣れた手つきで、気絶しているゼルを起こさないように鎖で拘束した。
「ゼル、皮肉なもんだよな。自分で用意した拘束具が自分自身に使われるなんて……。」
5分足らずでゼルの拘束を済ませ、廃工場の扉を塞ぎ、一同は勇の家に向かった。
無事家にたどり着いて、ナギはさっそく勇とレオの傷口に魔界から持ってきた薬を塗り、包帯を巻いた。
「ナギは相変わらず治療も上手だね。包帯の巻き方もすごい綺麗だ。」
「それにこの薬を塗った傷口が痛まなくなった。魔界にはこんなすごい薬があるのか?」
「ナギが調合した薬はまた特別さ。こんなに効き目が良いのは魔界にもそんなにないよ。」
「ちょっとレオ、おだてすぎだって。そりゃ確かに剣術や治療、その他諸々の腕前は近衛部隊の中では誰にも負けないって思ってるけど。」
ナギは顔を赤くして照れだした。さっきまでゼルを作業のように鎖に繋いでいた人物とは全く別人のようだ。
勇はさっきまで敵だと思っていたナギを少し警戒していたが、レオとの面識があり、ちょっと誉められると照れ出すという可愛らしい一面もあることが分かり、少し安心したようだ。
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