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王国と共和国
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ゼルに重症を負わされた勇とレオだったが、ナギの薬のおかげで通常の倍近くのスピードで回復しそうだ。
ナギによると、安静にしていれば1週間ほどで傷跡も綺麗に消えて通常の生活に戻れるという。
「そう言えば、お兄さんの名前まだ聞いてなかったよね? それとレオとはいつから一緒に住んでるんだい?」
「おれは田中勇。広告代理店で働くサラリーマン。レオとは3ヶ月ほど一緒に生活しているよ。上京してずっと1人だったから、レオがいてくれて色々と助かってるんだ。」
「……なるほどね。スパイの任務で仕方なく2人の私生活をちょっとだけ見させてもらったけど……その、2人の仲がなんかすごいイイ感じになってることだけは知ってるよ。」
ナギは顔を赤くして申し訳なさそうに話すが、それを聞いた勇とレオの方が恥ずかしそうにしている。
「そ、それにしてもナギとまたこうして会えたことが嬉しいよ。」
「レオ、このおれが死んだと思った?」
「ううん、まさか。ナギが戦場で行方不明になったとの知らせを受けて、周りのみんなはもう戦死したって思ってたみたいだけど、ぼくと姉さんは絶対生きてると信じてたよ。」
「出征する前夜、レオが泣きじゃくっておれを戦場に行かせまいとしてた時が懐かしいな。」
「ナギは臣下というより兄のような存在だったからさ。ずっと一緒にいた人とこれっきりになるんじゃないかと悲しくなって……。」
「でも、当時誰もが愛する家族を戦地に送られて悲しい思いをしていたんだよね……。それを考えずにわがままを言ってたぼくは恥ずかしいよ。」
「おいおいレオがまだ10歳頃の話だろ? そんなガキんちょが視野を広げて物事考えられる分けないって。」
「それにおれは嬉しかったよ。こんなにお前がおれの事を必要としてくれてたんだなって……。だからこそ絶対に生きてまたここに戻ると心に決めて戦地に赴いたんだ。 」
エナ王国には孤児を集めて国が引き取り、将来軍人のにするために英才教育を受けさせるプログラムがあるらしい。
ナギも元々孤児で、国から軍人になるために厳しい訓練を受けてきた。
あらゆる分野で成績がずば抜けてよかったナギは、名誉とされる近衛兵に抜擢された。士官学校に入学する18歳まで与えらた任務が、王子だったレオの護衛だったのだ。
「なぜレオの護衛をしていたナギさんが戦場へ?」
「ああ、それはね……あ、そうそう、おれのことはナギって呼び捨てで構わないよ。おれもお兄さんのこと勇って呼びたいし。」
ナギの話によれば、戦況の悪化により王国の将兵の数が足りなくなったので、護衛兵であった当時15歳のナギ自身も前線に召集されたという。
物量や兵数から見ても不利な王国軍は壊滅し、ナギも重症を負った。なんとか敵に発見されず戦場から離脱することができたが、ナギは後遺症により記憶喪失になってしまった。
自分の名前以外すべて忘れてしまったナギは当てもなく国内の各地をさ迷った。東の辺境の地域にたどり着いた時、自分の名前を知っている人々が現れて保護されたという。
やがて記憶を取り戻し、周りを見渡せばその東の辺境の地こそが王国復興を目指すかつて共に戦った元王国の兵士達の村だったのだ。
レオと過ごした楽しい日々を取り戻したいナギは、王国復興のために自分も戦うとことを決意し、スパイとして共和国軍内部に潜入するという危険な任務に進んで志願したのだった。
「ナギは銃弾をかわして近接戦闘に持ち込むスペシャリストなのに……。敵はそんなに強かったの?」
「敵ね……敵はとんでもない連中だったよ。共和国はエナ王国から分離したものだから、元々同じ国民だった奴らと戦う分けなんだけど、そのほとんどが脅されて無理やり戦地に送り込まれ農民ばかりだったんだ。」
「指揮官達は前線で士気を取らず、背後から命令を下していたよ。後ろなら攻撃が当たりにくいし、何よりも脱走する兵士を監視しやすく、見つけ次第死刑にできるからだとよ。」
「それと、牢から出した罪人や他国の傭兵まで動員されていたよ。特に凶悪犯がいる部隊では現地で略奪や虐殺を当たり前のようにしていたな……。」
「ナギっ……それ事実なの? そんなひどいことが本当にあったの?」
「事実さ。戦後は共和国のイメージに響くから徹底的に伏せられたけどね。」
「そんな……共和国の多くの人々は王国の不信感から反旗を翻したと思っていたのに……。」
「共和国の大統領になってのさばってるあの裏切り者の元宰相、未だ王国に恨みがある旧敵国からかなりの支援を取り付けて国力を急速に増やしたんだ。」
「既に大戦で疲弊していた王国は、あの物量と善良な民を盾にした卑怯な戦い方に為す術がなかったよ。」
レオはナギの話を聞いて愕然とした。また、王子の身分でありながら、子どもで無力だった自分に苛立ちを覚えた。
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