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特別な感情
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ナギはどうしても自分から葉瑠に話しかけたくないという。
そう訴えるナギの様子はどこかよそよそしく、なぜか照れている。
そんなナギを見てレオは察した。
「ナギ……もしかして葉瑠くんに一目惚れしちゃったの?」
ナギは図星を突かれたようだ。恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。
「な、何言ってんだレオ! おれがあんなナヨナヨしたガキんちょに惚れる分けないだろうが!」
「と、とりあえず今のところお前らの周囲に問題はない! 一旦戻るが何かあればすぐ連絡するように!」
ナギは逃げるように勇の家から出ていった。
「ありゃ図星だな。よくナギが葉瑠くんに惚れてるってことが分かったなレオ。」
「うん……。魔界にいた時からナギって宮中にいる綺麗な人とかの前でモジモジしちゃう癖があるんだけど、あんなに顔赤くして緊張するのは初めて見たから、もしやと思って。」
「ナギって強いしイケメンだから、てっきり魔界でモテモテで普段から遊んでいるやつかと思ったよ。見た目とのギャップがあるな……。しかし、葉瑠くんは男の子なんだけどな。」
「勇、ぼくも男の子だよ……。」
ナギが葉瑠に特別な感情を持っていることをもし葉瑠自身が知れば、おそらく動揺して葉瑠もナギを今以上に遠ざけるようになってしまうかもしれない。
そう思った二人は、まだこの事実を葉瑠には話さず、一旦時の流れに任せてみることにした。
一方ナギは仮住まいにしているホテルに着いて、簡単な食事を済ませ、シャワーを浴びて仮眠を取ろうとしていた。
そのホテルはそこそこ高級で、長期滞在も可能な上にセキュリティもしっかりしている。
金銭面に関しては、魔界から持ってきたダイヤやルビー、サファイアなどの宝石類を換金しているので問題ないようだ。
ちなみに魔界では、人間界にあるような宝石類の原石は珍しいものではなく、地球でいうその辺りに落ちている石ころほどの価値しかない。
元々ゼルも同ホテルの別室にいたが、今は廃工場で軟禁中である。ナギは当初その空室にレオを入れて近くで護衛するつもりだったようだ。
しかし、勇の存在がレオをこの人間界で力強くそして幸せに生きていける源になっていることを知ったナギは、2人を切り離すことはやめようと決めたのだ。
この先あの2人が一緒にいられる時間は僅かかもしれない。それでもレオには少しでも長く幸せを噛み締めてほしいとナギは思うのである。
幸いにも、このホテルは勇の家からそれほど離れていないため、他の魔族が勇の家に近づいたとしてもナギの魔力なら十分に探知できる。
ベッドに入ったナギは、眠気でぼーっとした頭で葉瑠のことを考えた。
すれ違った時の香り、守ってあげたくなるような華奢な体つき、綺麗な黒髪……。
「バカかおれは! 余計なこと考えずに今は寝るんだよ……! くそ、調子狂うな……。」
ナギはなかなか葉瑠のことが頭から離れなかったが、しばらくすると自然と眠りに入ったようだ。
ナギは夢の世界に入った。舞台は元勤務先であるエナの王宮だ。
ナギはレオを護衛する傍ら、レオの武術や魔術の鍛練、勉学などにも付き合う。そして、休憩時間や課業後にはアルルも交えて他愛のない会話をする。
孤児だったナギにとって、とても温かい日だった。夢に出て来たのも、決して忘れることができない素敵な思い出だからだろう。
場面は移り変わり、次の舞台は戦場だ。夢とは残酷なもので、自分の意思とは関係なく辛い思い出も映し出してしまうものだ。
血だらけの大地、自分の側でもがき苦しんで死んでいく戦友逹……。ナギは悲しみと恐怖で呼吸が苦しくなる。
視界が暗くなり、倒れそうになった瞬間、誰かの小さな体が自分を支えてくれたのが分かった。
そして、その人はそっとナギを抱きしめた。フワッと良い香りがした。この落ち着く匂いには覚えがある。
ナギは心が安らいでいくのを感じたところで目を覚ました。その人の香りは、目覚めたこの瞬間にも余韻のように微かに感じた。
ナギは夢の人の顔を認知することはできなかったが、その香りからして、その人は葉瑠だと確信した。
「まだまともに話したこともないヤツに何執着してるんだよおれは……。任務中だぞ任務中!」
ざっと3時間ほど仮眠したナギは、軟禁中のゼルに水と食料を与えるために例の廃工場に向かう。
廃工場には特殊な魔方陣を掛けているので、ゼルが逃げ出すことはほぼ不可能だ。もちろん人間が近づくこともない。
ゼルは、工場奥の狭いボイラー室に僅かな明かりだけで軟禁生活を送っている。武器類やその他の荷物はすべて没収済みだ。
「おい、起きてるか? 今日の食事だ。」
ゼルはむくっと体を上げて話し出す。
「いつまで私を生かすつもりだ? 仮に魔界に戻ったとして、共和国元王国どちら側からも死刑を言い渡される身だ。ならばいっそのことこの場で切り捨ててくれないか?」
「お前がそんな泣き言を言うとは……。だいぶ心が弱っているようだな。レオを傷つけたお前は憎いが、過去の罪を含めそれを裁くのは司法だ。」
ナギはそっと食事を置いて、立ち去ろうとした時、ゼルがバタンと音を発てて倒れ込んだ。
「うっう……苦しい……。誰か……。」
ナギは慌ててゼルに近づいて、体に触れた。
「お……おい! 一体どうした! どこか悪いのか!?」
「あ……ああ……痛い……。これは痛い!!」
ゼルはまち針のようなものをナギの後ろ首に刺した。
刺されたナギは意識を失いかけている。針には毒が含まれているようだ。
「なぜ……。武器はすべて没収したはず……。」
ナギはゼルが掛けている眼鏡のフレームにナギを刺した小さな針をスッとしまい込むのを見た。
「くそ……。眼鏡なんて知るかよ……。」
ナギは完全に意識を失った。ゼルはナギが倒れたことによって魔方陣が解除されたのを確認し、廃工場を後にした。
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