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剣士の本領①
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ナギは葉瑠の声が聞きたくて、ワクワクしながら発信音が音声に切り替わるのを待っていたのに、出た相手はみんなの命を狙うあの忌々しいゼルだった。
「なんでお前が……。葉瑠は? 葉瑠はどうしたんだ貴様!」
「そんなに声を荒らげるな。心配しなくていい。その葉瑠ってガキは横で大人しく寝てるよ。ナイフで脅して、腹をちょっと蹴っただけで意識が飛びやがった。ふっ…人間はもろいな。」
ナギは葉瑠を痛めつけた話を愉快にするゼルに対して激しい怒りを感じた。
「ゼル……やっぱ貴様を生かしておいたのは間違いだったな…。これ以上葉瑠を傷つけたら見つけ次第八つ裂きにしてやる。」
ゼルはナギをわざと怒らせ、冷静さを欠いた時の隙を狙う計画をしていた。案の定ナギは罠にはまったので、ゼルはニヤけが止まらないようだ。
「ナギ、お前一人で私に会いにこい。場所はこのガキがいる神社だ。」
ゼルはそう言い捨てて電話を切った。ナギはゼル怒りで冷静な判断が出来ず、すぐにホテルを飛びだして天劔神社に向かった。
本来ならば勇とレオに伝え、協力しながら冷静に対処しなければいけないのに、今のナギには無理のようだ。
狡猾なゼルの思う壺となったナギは、どのようにしてこの困難を乗り切ることができるのだろうか。
ナギはレオの付き添いで、何度か天劔神社に行ったことがあるので場所は把握している。
心の片隅では、いつか個人的に葉瑠を訪ねることができるようになればと思っていたが、まさかこんな形で赴くことになるとはなんと皮肉なことかと嘆いた。
しかし、今は嘆いている場合ではない。一刻も早く葉瑠を助けるべく神社に急行した。
「葉瑠…待ってろ…! 今すぐおれがあいつをとっちめて助けてやるからなっ…!」
坂の道を全力で駆け上がり、鳥居をくぐって神社の境内に辿りついた。
夕日は沈み、辺りは既に真っ暗だ。草むらから鳴り響く虫の声以外は何も聞こえない。
ナギは周囲を警戒しつつ、神社の奥へと進んで行った。
「ゼル!! どこだ! 出てこい!」
ナギは声を荒らげて叫んだが、返事はない。しかし、奥に進むにつれて、微かに葉瑠の気配を感じるようになった。
葉瑠は拝殿の中でぐったり倒れており、ナギは急いで駆け寄った。
「葉瑠! 無事か!? おれだ! ナギだ!」
葉瑠は気絶しており、返事をすることができないようだが、命に問題はなさそうだ。
ナギがホッとした瞬間───
体に鈍い感覚が走った。腹部に目をやると、大きなナイフが背中から腹部にかけて貫通していた。
刺されたことが分かったナギは、激痛と出血により倒れ込んだ。背後を見ると、血の滴るナイフをペロリと舐めるゼルがいた。
「貴様…どこにいた…?」
「ずっとこの建物の天井にいたさ。真下のこのガキの気配と、お前自身の気の緩みで私にまったく気が付かなったようだがな。」
「ナイフは私にとって人を傷つける時に最も快感を味わうことができる武器だ。新しくこの国で手に入れるのは少し苦労したよ。貴様があの眼鏡に仕組んだ毒針で逝かなかったのは腹立たしいが、コイツで切り刻んだり滅多刺しにできるなら私は満足だ。」
ナギは出血する腹部を手で必死に押さえながら言った。
「くそったれが…。やるなら一思いにやりやがれっ…。」
「安心しろ。私も暇じゃないんだ。お前をすぐ殺し、そこの寝っ転がってるガキ、王子とその恋仲の人間の順に殺して、一刻も早く魔界に戻りたいんでね。」
ナギはレオや勇、そして自分の中で存在が日に日に増していく葉瑠の命を奪うと宣言したゼルに対して怒りが頂点に達した。
刺し違えてでも止めなければと思い、廃工場でゼルから取り上げたナイフを取り出し、飛びかかった。
ナギの縦斬りは、ゼルの胸元に深い切り傷をつけた。
「ぐっ!… なぜ貴様そんな重症で…?」
「見くびるなよ。おれは近衛隊出身の戦闘のエキスパートだぞ。死ぬまで任務を完遂するまで動き続けることができるんだ。」
「それに、おれの魔力は風の力を借りて体を身軽に動かすことを得意とし、剣を持つとその力が増幅されるんだ。お前の穢れたナイフなんて利用したくなかったが、この状況では仕方なかった。」
ナギの一撃でゼルもかなりの手負いとなった。しかし、元軍医だけあって治癒の魔力に長けている。傷の回復を促進する魔力を放出しながらその場から一時退いた。
「くそ…死に損ないが! 今日中に全員皆殺しだ!」
「待てゼル! くっ…。痛いなちくちょう…。」
ナギの刺され傷ではゼルを到底追うことはできない。次にゼルはおそらく遠距離から攻撃を仕掛けてくることを悟ったナギは、葉瑠を担いで拝殿を出た。
ある程度回復したらゼルの攻撃が始まる。その前に身を隠して対処したいが、深い傷により動けない。相変わらずも出血もひどい。
せめて葉瑠だけでもと思い、起こして走って神社から脱出させようとした。
「ナ…ナギさん? ナギさんその傷っ…。僕を助けようとして、ゼルにやられたのですか…?」
「起きたか葉瑠…。おれは大丈夫だから、お前だけでもこの場から逃げてほしい…。」
「い、嫌です! 大好きなナギさんと離れたくありません!」
ナギは葉瑠の「大好き」という言葉に一瞬戸惑ったが、何としてでも逃げるように説得した。
「バ、バカ野郎! このままだと共倒れだぞ!? それに俺はお前に死なれたくないんだ…。」
「ナギさん…。ナギさん! まだ勝機はあります! あの光をみてください…!」
葉瑠が指を刺す本殿の内部から、緑色に輝く妖しげな光が放たれていた。
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