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剣士の本領③
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剣を持つナギを前にしたゼルは、足が震えてその場から動けなくなった。
ナギは魔界のエリート剣士である。剣を手にした時、一気に魔力と戦闘能力が上がるのだ。
「ゼル、おれがなぜスパイ中、剣士であることを隠していた理由が分かるか? お前みたいにみんな剣士のオーラにビビってしまうからだよ。そんなんじゃ目立ってスパイ活動できないだろ?」
ゼルは、どんな姑息な手を使っても勝てないことを直感で理解した。
しかし、逃げようとしても足の震えのせいで思うように体を動かせないし、仮に動けてもナギの素早い斬撃から逃れられないことも理解している。
「…私の負けだ。投降する。」
ゼルは考えが甘い王子の一味ならまずその場で命を奪うことはしないだろうと思い、ここは一時捕まる不利をして、スキをみて逃げようと企む。
──次の瞬間、ナギはゼルの胸を剣で一突きさした。
「ナ、ナギさん! なぜ!?」
ナギの後ろにいる葉瑠が動揺している。いくらゼルが残忍な敵とは言えど、ナギが投降した相手を簡単に殺めるなんて信じられないからだ。
「まて葉瑠! まだこっち来んな。成功してればいいが…。」
よく見たら、ゼルの体から血も流れて無ければ、傷も無い。ただそこに呆然と突っ立っているゼルがいるだけだ。
「貴様…何をした…?」
ゼルがようやく言葉を発したと思えば、直後にバタリと倒れた。
「ナギさん、彼に一体何を…?」
「こいつの悪の心だけを貫いたのさ。おれは…おれはなるべくもう誰も殺したくないんだ。」
ナギが言うには、天剣(あまのつるぎ)には優しくて強い正義のエネルギーが溢れており、戦いの勝敗が決定した時に相手の闇の心を炙り出し、それを断ち切ることができるという。
この技は剣士の中でも相当な腕の立つ者しか使えない技で、さらにかなりの魔力を有する。ナギはゼルから受けた傷による多量の出血と魔力の使いすぎにより今にも倒れそうだ。
「葉瑠、こいつはしばらく動かないから安心してくれ。おれは少し寝る。もう…限界だ…。」
ナギは葉瑠にそう言い残して、本殿の壁にもたれ眠ってしまった。
「ナギさん…? 大丈夫ですか? ナギさん!」
葉瑠は、ナギが傷の悪化により意識が飛んだのかと思い一瞬焦ったが、いびきをする音で寝ているだけだということが分かって一安心した。
しかし、刺傷は重症であることには変わりないので、治療をしなくてはいけない。
どう行動していいのか分からず、あたふたしていると、神社正面の鳥居から誰か登ってきた。
「あ、いた! 勇、あそこに葉瑠くんとナギが!」
「おいナギのやつ倒れてないか? 急ごうレオ! 」
葉瑠がゼルと闘いの最中、隙を見てこの状況をスマホでレオに伝えていたのだ。
葉瑠とナギがゼルに襲われたことを知った2人は、慌てて神社に向かったが、既に戦闘はナギが全て終わらせていた。
勇とレオはナギと葉瑠が命がけで戦っていたのに自分達は何も知らずにいたことを恥じた。
「ナギ……本当にごめん……。こんなぼろぼろになるまで……。」
一同はナギの治療のために、境内にある宿舎に入った。
葉瑠は少し前にナギから応急処置のやり方を学んでいた。自分にも何か役に立てることはないかと思い、一生懸命学んだことが今まさに報われようとしている。
ナギが魔界から持ってきた救急キットを開けて、慣れない手付きで必死に応急処置をした。
レオと勇も手伝い、なんとか止血に成功した。
おそらく数日間は寝たきりになるという。
「ナギが寝てる間はおれがレオを守るからな。もちろん自分が弱いことは知ってるよ。お前を逃がす時間稼ぎぐらいはできるかなと。」
「ありがとう勇。でも、ぼくだけ生き残るのは嫌だよ? 勇も、葉瑠くんもナギもみんなで生き抜こうよ。」
「そうだな…。しんみりさせちゃってごめんな。ところでゼルのやつはどうする? 目を冷ましたらヤバいんじゃないか?」
「ナギさんが倒れる前にこの人の悪の心を貫いたと言っていましたが…目を冷ました頃には良い人になってたりするんでしょうか。」
ゼルも宿舎の別室で寝かせてはいるが、起きた時どうなっているのか未知数のため手足を縛っておいてある。
ナギが目を覚ますまでの間はなるべく1人にならない方がいいと思い、勇とレオはこの神社の宿舎で生活することにした。
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