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戦場の記憶
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「こっちだ! 早く!」
爆煙が渦巻く中、悲壮感溢れる声で衛生兵を呼ぶのはレオの護衛役だったナギ・グラナディアだ。
通常なら、ナギはその年に士官学校へ行く予定だった。しかし、内乱が激しくなり王政を支持する側の劣勢が報じられるやいなや中止となり、最前線に一兵士として送られた。
エナ王国から独立を目指す南部を中心とした敵の軍勢は、戦いに勝つためならどんな汚い手段も用いた。
罪人を牢から出して、最前線へ突撃させたり、農村から健康で若い男子を強制的に召集し、禄に訓練をさせないまま剣や槍を渡して戦場に送り込む等、非道の限りを尽くした。
実のところ、全魔族が魔力を使えるという分けではない。皆、潜在的には使えることになっているが、発現できるのは全体の3割にも満たない。
さらに発現した魔力が必ずしも戦闘に向いたものばかりではない。
レオやナギのように炎、風を操ることができるなら戦闘向きと言えよう。本人の才能や訓練次第では、大軍だって蹴散らすことができるだろう。
ゼルのように相手の治癒能力を高める魔力が得意なら、後方支援をすることになる。
敵の南部兵士達はほとんど農業に従事していたため、魔力が発現することはおおよそない。
前述の通り、訓練も禄に施されていないため剣や槍の攻撃もぎこちない。
ではなぜ南部反乱軍はよく鍛えられた北部王国軍の兵士や魔力使いに勝てたのだろうか。
その理由の一つに、敵の指揮官が見方の兵士に刀傷一つでも付けばその場で大爆発を起こす非道な魔力を使ったからである。
その凶悪な魔力は兵士だけに及ばなかった。飢えた孤児を王国軍の各野営地に向かわせ、施しの食事を口に入れた瞬間爆発を起こさせたのだ。
ナギも元々孤児だった。飢えの苦しさを知っており、また施しを受けた時の嬉しさも知っている。
その孤児たちの感情を逆手に取った非道な敵に猛烈な殺意を感じた。さらに、この理不尽さと小さな命も守れない自分の不甲斐なさに気が狂いそうな程の怒り感じた。
あの日は雨だった。爆発の炎は激しい雨の中でも燃え続けていた。
一粒一粒冷たく重たい雨はずっとナギの心を打ち続けている。
「ナギさん…?ナギさん大丈夫ですか?」
ナギは崩れ落ちる濡れた体を優しく包み込んでくれるような柔らかい声に目を覚ました。
どうやら、現在自分がいる人間界の今日もあの日と同じ雨らしい。激しい雨音だけは夢から引き継がれたままだった。
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