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中学生でも通じそうな小柄な身体と童顔だ。教室の誰かが、紫じゃん、と彼の名を口にする。
「…これだから、α様は。御勉強と保健体育の実技にしか興味がおありでない。」
机に腰かけていたΩ…紫 薫。学年首席と誉れ高く、浮いた話一つない生徒は、猫の如くするりと床に降り立つと、しなやかな足運びで嶋の前に出ていった。
「君らの品性の欠片もない話を聞いていると、耳が腐り落ちそうだ。とっとと教室から出て、男子トイレにでも急行しなよ。…血気盛んな十代だものね。好きなだけ相手のいない自分の体を慰めると良い。」
御伽の絵本から飛び出した王子そっくりの高貴な出で立ち。傲慢な口調。Ωのものとは思えない、αに対してのぞんざいな扱い。同級生のαやβ達は、彼を恐れて陰でこう呼んだ。
…『御坊っちゃん』と。
要は、完璧に舐め腐っている。まあ、種族としては劣っていると締め出されつつあったΩが学年首席をキープし続けているのだ。やっかみの一つや二つ、言いたくもなるだろう。
嶋が知っている、紫の情報はそこまでだった。これまで、特にこれといった接触はない。だから、ここまであからさまに喧嘩を売りつけられて、正直嶋は困惑していた。
「あ゛ぁ゛‼?」
友人思いで、なおかつαにもこだわりのある市川がいの一番に紫に噛みつこうとする。嶋は急いで、友人の胸を片拳で緩やかにだが適切にノックした。待て、と目で語ってきかせる。嶋の緊迫感のある眼差しに、市川は尻尾を丸めるかの如く急速に大人しくなった。
一連の様子を眺め、紫は不機嫌そうに鼻を鳴らす。顎を引いて、御伽の王子様は縫いたくなるほど真っ赤な肉厚の唇で、ゆっくりと告げる。
「やれやれ。我がクラスのα様は、どいつもこいつもアレがついてないみたいだね??なに??室内飼いのペットみたく去勢しちゃったの??」
どこからともなく、下世話な洒落にやられた奴らのくすくすという笑い声が漏れ聞こえてくる。市川の歯ぎしりの音が、まるで自分がやっているみたいに間近で聞こえた。
「それとも、僕みたいな賢いΩの前じゃ迂闊に本性を出せないのかな??」
目と鼻の先まで王子様の顔がせり出して、血の如く赤い唇が開く。
「…心ン中じゃ、“こいついつ喰ってやろうか??”なんて舌なめずりしている癖にね…。」
しまった、と思った時には遅かった。嶋の右手が、紫の胸倉を掴み上げ、一気に近寄せていた。紫の首元に、紺の“首輪”と呼ばれる物が覗いていた。睨み合う両者。一気に凍り付くクラス全員。…教室の不気味な静寂の中。壁掛けの時計だけが、律儀に音を刻み続けていた。
「…お前なんかで抜けるはずねぇだろ。」
数秒後。言い過ぎたか、と若干目をそらすが、ここで引き取ったら男が廃る。それでなくても紫が真ん丸の妙に冷めた双眸で、彼をじっと凝視していた。
「違うね。薬(今作では薬=抑制剤の飲み薬タイプを示す)があろうとなかろうと、君らの本性は獣なんだって。僕らΩを、四六時中、性的な奴隷としか見なしていない。」
嶋は殺気立ち、より相手に近づく。嶋と紫の額が擦り合い、前髪がじりっと拗れる。
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