アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
15
-
窓の外から、微かに油蝉の声が聞こえる。嶋はふと、下校中に鳥が蝉を襲っていた様子を思い出す。それまで蝉は、求愛のためだけに鳴いているのだと思っていたが、攻撃を受けていた蝉は断末魔の叫びとばかりに声をあげていた。シュールなワンシーンだった。
…なんて他愛ない回想を終え、嶋はぽつりと結論を出す。
「…いや、発言が矛盾してね??」
呟きと同時に、クーラーが低く唸り出した…。
暇になった嶋は、荷解きをする気にもならず、テレビのリモコンで電源を入れて、ソファーにどっしりと座ってバラエティ番組を眺めていた。嶋は、ひな壇の芸人達がわいわいがやがやとやっているのを見るのが、割と好きだ。
十分後くらいして、廊下の扉からぴょっこりと紫が顔を出す。目を丸くしている嶋に、相手が呼びかける。
「…嶋、来て。部屋を案内する。」
そういえば、昼食を済ませてすっかり腰を落ち着けていたが、部屋もろくに把握していない。リモコンでテレビを消して、嶋は重く気怠くなった身体を持ち上げる。有無を言わせず、部屋の奥に消える相手に、テレビの続きが気になる、なんて子供っぽい文句は言えなかった。
「はいはい。案内、お願いするわ。」
紫家は、玄関から伸びる廊下を幹のようにして、そこに枝状に部屋が続いていた。廊下の手前から、右側にトイレ、浴室に続く脱衣所の扉が等間隔にある。同様に左側にも扉が続く。玄関のすぐそば左手に、紫の部屋兼寝室…ちらっと覗いたが、紫らしく小綺麗な室内だった。入口から見て奥の壁沿い中央に本棚が二つ。扉から向かって右手、窓際に置かれた勉強机、部屋の隅にはベッドがある。
嶋が案内されたのはその奥、六畳ほどの部屋だった。紫の部屋より一回り小さい。早速、紫が手探りに壁を模索し、何かを押す。ぱちん、と軽い音がして照明がつく。…光の下、室内はがらんとしていて、入口と反対側、奥に大きめのクローゼットが一つ。入口から見て左の壁沿いにベッド。右手にポールハンガーが一つある。
「ここ…。」
嶋が困って同居人を振り返ると、彼はつかつかと奥のクローゼットに歩み寄って扉を全開にした。…そこには、浴室や脱衣所で使用されると思わしき備品の山が築かれている。
「…ここは、母が前に使っていた部屋だ。今までは、物置同然に使っていた。これからは、君が使うといい。」
すまないな、と頭を小さく傾げ、紫は相手に詫びる。
「本来なら、ここに僕が引っ越して日当たりのいい僕の自室をアンタに譲るべきなのだろうけど…。」
「いや、ここで十分だよ。」
嶋は、てっきり自分はリビングのソファーが寝床になるのだとばかり思っていた。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 146