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ぽつりと呟いた疑問に、優等生は瞳を伏せて答える。
「仕方ないんだって…。母子家庭ってだけで、世間は何だかんだうるさいのに、僕がΩとして生まれてきたせいで、僕ら親子の風当たりはますます強くなった。…だから、せめて馬鹿にされない免罪符が欲しいんだよ。僕にとっては、それが学年首席の座だったってだけ。」
吹けば飛びそうに所在なさげな同居人の姿に、嶋はつい彼の名を呼ぶ。
「紫ちゃん…。」
図書館を後にした二人の瞳に、山裾に沈んでいく眩い夕日が飛び込んでくる。
「わぁ…っ。綺麗だね‼」
「お、おう…。」
爛々とした双眸を向けられ、嶋はどきりとしてしまう。疲れているせいか。現在の紫は、無防備で純真で…まるで活発な子供を思わせる。
「嶋、リアクション薄~い。」
「わ、悪ィ…。」
「今晩、何食べる??…って、カレーが残っているんだった。あっ、でも副菜の材料が足りないや。スーパー寄らないと。嶋、荷物持ちやってよ。」
へいへい、と頷きながら…嶋はついと目を細める。
「なぁ、紫ちゃん。」
「ん~??」
「紫ちゃんはもっと…。」
口を開きかけて…結局、嶋は噤んでしまう。
「…なぁに、嶋??」
冬の陽だまりの如く柔らかく微笑んで、紫は先を促す。嶋は葛藤する。
(Ωだからって、そんな勉強して身の丈に合わないプライド築き上げる必要、本当にあんの??)
(17の高校生活は、今しかないじゃん??…紫ちゃんが利き手真っ黒にして、問題集捲って頭フル回転している間、みんなもっと違うことしているのに。)
(誰が好きとか、Hしたいとか童貞捨てたいとか。どこそこの遊園地に行きたいとか、あのブランドのアイテムめっちゃいいとか…。免許取ってバイク走らせてぇとか、そんなんたくさん…。大人になったら、“どうでもいい”の範疇に入ること、やれるのは今だけなのに。紫ちゃんは勉強ばっかで、大人になって本当に後悔しない生き方をできているように見えねぇよ‼)
「紫ちゃんさぁ…。」
(“もっと馬鹿になれよ‼”。いや、学年首席に何言ってんだ、オレ。“どっか行きたいとこない??”。えっ、何ナンパしてんだ??ええい、考えろ…。深刻になんないでバカになろうぜ☆、みたいな声のかけ方。他に何かないか…。他に…っ‼)
隣の紫は、じっと相手を眺めている。澄み切った双眸に、嶋は喚く。
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