アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
91
-
片腕の幅をとり、隣あって歩いてきた二人が互いを睨みつける。視線の交わる位置では、今にもバリバリいう雷の音が聞こえてきそうだ。
「あ~あ‼せぇ~っかく、オレが病院まで直々にお迎えに来たってのにさ‼」
「はぁ??…何それ。僕、一言も“来てくれ”なんて言ってないんですけどォ~??」
嶋の足が止まり、同居人を真向から見据えて叫ぶ。
「っは‼“オレに会いたい、会わなきゃ死ぬ~‼”なんてかぁ~わいい手紙を送ってきたのはどこの誰さんでしたっけぇ??」
「死ぬなんて言ってないし‼へぇ~??脳外科だけじゃないんだ‼眼科もいいとこ探さなきゃいけないねぇ~!?」
睨み合う二人。…ふと、嶋の視界に見覚えのある人影が掠めた。
「嶋、あのさ。言いたいことがあるんなら、はっきりと~…。」
紫の肩を力任せに押しのけ、同居人は荷物を持ったまま勢いよく駆け出す。荷物ごと走っていく嶋に、流石の同居人も焦りをみせる。
「ちょ…っ、嶋‼?」
嶋は頭だけ振り向くと、悪い、と顔の前で片手を立てる。
「ちっと知り合い見っけた‼先、部屋に戻っておいて‼」
「ざっけんな、荷物泥棒‼嫌がらせの荷物持ち逃げとか、絶対に許さないから‼」
それぞれ怒鳴り合うが、ほぼ同じタイミングなものだから、相手の言葉が通じていない。
嶋は人影を追って走る。同居人の後ろ姿を、紫は懸命に追った。
紫のマンション周辺は、閑静な住宅街で家の境は生垣や灰色のブロック塀なんかで区切られている。ちょうどブロック塀の角を曲がったところで、発情期明けだというのに汗だくになった紫は、お目当ての相手を見つけた。
「ちょっと、嶋‼」
怒号をあげ、ずんずんと近づこうと一歩を踏み出した…直後。視界が拓けて、一人だと思っていた嶋のそばに小柄な少女がいるのを悟る。
「ぇ…っ」
紫は小さく叫んだが、咄嗟に自分の口を両手で塞いだ。慌てて、付近にあった電柱に身を潜める。
電柱の影から様子を伺いつつ、紫は肩を落とす。紫の横顔は、若干蒼褪めていた。瞳はどんよりと曇っている。
機会を見て、電柱からひょっこりと顔を出し、紫は二人の様子を遠巻きに眺める。穏やかに談笑している。…紫は見てしまった。少女の首元には…他者の視界を遮るものが一つもない。
電柱の影に身を戻し、紫は深々と溜息をついた。
「…知り合いを見つけたって、嫌がらせの口実じゃなかったんだ。」
ちらり、と横目で嶋達がいる方角を向いて、紫は顔を戻す。
「あの子…やっぱり首輪つけてなかった。」
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 146