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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
不審な訪問者9
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そこまで考え、少年は知らず、僅かに震えた。恐らくそれは嫌悪から来るものではなく、怯えから生じたものだったのだろう。心の内を覗かれ、そして踏み込まれる。それは少年にとって、死よりも激しい苦痛を伴うことだ。少年が知らぬ間に忘却した忌まわしい記憶を、もしかすると掘り起こされてしまうかも知れない。無論、記憶を忘れたことすら覚えていない、あるいは認識していない少年の思考がこれに至ることはないが、それでも本能は怯え、恐れ、慄く。
いつの間にか、店内には男と少年の二人きり。ああそうだ、ついさっき、本日最後の客が帰ったところだった。いや、この男も客なのだから、最後の客、ではないのだろうが。
「そんなに構えるものではないよ。少なくとも、私は精神に作用する魔法など使えない。まあ、信じるか信じないかは店主殿次第だが」
来客用のソファに座っていた男が、緩く微笑んだ。その言葉に、とっくに冷め切っていた茶を飲む手が止まる。
「……何のことでしょう?」
にこり。白熱電球の笑みを返せば、男の微笑みが困ったようなそれに変わった。
「いや、酷く怯えているように見えたのでな。少しでも安心させられれば、と思ったのだが」
「…………」
「得体も知れぬ男の言うことなど信じるに値しないかも知れんが、それでも、誓って私はそのような魔法は扱えない。そういった細かいことが得意な知り合いはいるが、それにも限界というものがあってな。相手が踏み込ませたくない領域に踏み込めるほどの精神魔法となると、この広いリアンジュナイルでも、扱える者は五指にも満たないだろう」
だから安心して貰えると嬉しい、と重ねた男に、店主はやはり、にこりと笑んだ。
「ですから、何の話でしょう?」
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