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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
不審な訪問者10
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「……ふむ。まあ、店主殿がそう言うのであれば、今の私の話は戯言だとでも思ってくれ」
そう言って、男は持っていた湯飲みを口元に運んだ。
「そうですか。……それはそれとして、兎に角、お客様のご迷惑になるようなことだけはしないでくださいね。まさかそんなことはないと思いますけれど」
「勿論だとも。しかし、私も一応客なのだが?」
店主の言葉に、男が悪戯っぽく笑う。
「……そうですね、それは失礼致しました」
一拍を置いて、少年の方も相変わらずの笑みを返すが、心の内ではこの得体の知れない男が一刻も早く帰ることだけを祈っていた。そんな店主の心情を察したのかそうでないのか、それは判らないが、出された茶の最後の一口を飲み干してから、男は立ち上がった。
やはり、判らない男だ。こういった些細な立ち居振る舞いはやけに優雅だと言うのに、言動や行動は素朴そのもので、その不和がなんとも気持ち悪い。尤もこの不快感は、男そのものを不快だと思うが故に生じているものに過ぎないのかも知れないが。
「さて、そろそろ店じまいかな。では、今日はこれでお暇するとしよう」
「そうですか」
男の言葉に少年も立ち上がる。顧客である以上、見送るのが店主としての務めである。
「しかし、こう毎日いらっしゃらなくても良いのですよ? お仕事もあるでしょうに」
「はっはっはっ。いや、仕事の方は現在部下に丸投げしていてなぁ。なに、優秀な部下だ。私のような使えぬ上司がおらずとも仕事くらい回してくれるだろう。寧ろ、邪魔者がいなくてせいせいしているやも知れん。何も心配はいらんよ」
この男を上司に持った部下とやらの不幸を思いつつ、少年の唇が曖昧な笑みをかたどる。
「そう構えなくて良い、と言っただろう? ……この国には探し物をしに来ただけだ。それが済んだならば、すぐに出て行くさ」
「……探し物、ですか」
今の発言からすると、男はどうやらこの国の人間ではないらしい。他国の人間か、旅人か。それは判らないが、金の国に籍を置く者ではないことは確かだろう。
しかし、いくらこの国の住人達が様々な大陸の血を引いた多国籍民族だとは言え、ここ数日自分の店に通い詰めていた客が外部から来たということすら知らなかったとは、我がことながら驚きである。それと同時に、店主は男に対して更に警戒を強めた。
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