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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
不審な訪問者11
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これほどまでに親しげに話しかけ、相対する他者の内情を造作もなく晒させていく反面、この男は、自分のことは欠片も表に出していなかったのだ。それこそ、この国の人間でないということすら、気付かせないほどに。
「店主殿は、なかなか警戒心が強いらしい。いや、己のことを話さなかったのは私の方だからな。自業自得と言うやつか」
「……別に、気にしていないので、貴方もどうかお気になさらず」
「そう言わずに聞いてはくれないか。そもそも私は赤の国、グランデル王国の人間でな。とある事情により失せ物を探しているのだが、それがどうやら金の国にあるらしいと知り、こうして足を運んだのだ」
「はぁ」
グランデルと言うと、ギルガルド王国の隣に位置する国だ。首都であるここからならば、国境まで徒歩で三か月はかかるだろうか。何にせよ、心底興味がない。良いから早く帰ってはくれないだろうか。こちらの心の内を見透かしたような物言いは、とても居心地が悪いのだ。
「この失せ物というのがまた、厄介でな。おいそれと口に出せるようなものではない。そうでなければ、もっと人員を割いて大々的な捜索ができるところなのだが」
男は周囲を窺うように声を潜めて言ってみせたが、少年にはその仕草が、何処かわざとらしいもののように思えた。
「何を失くしたのかは知りませんが、探し物なら、中央の行政府でも訪れてみてはいかがでしょう? この国は他の国と比べて排他的ではないので、高官の方々も他国の方に親切ですし、そもそもグランデル王国はギルガルド王国の友好国ですから。大切なものなら、こんなところで情報を集めるよりも確実だと思います」
少年としてはこれ以上ないほどにまっとうな意見を言ったつもりだったのだが、男は僅かに苦笑した。
「……そうだな。失くしたことを他国に知られては非常に困るものを失くした、と言えば良いだろうか」
「はぁ」
「失くしたものも大概だったが、それよりも失くし方が致命的だ。万が一これが公になった場合、グランデルだけで済む問題ではなくなってしまう。事は複雑に絡み合い、今となっては諸悪の根源が何者なのかすら定かではない、……のではないだろうか。いや、私も未だ確信を持って言える訳ではないのだが。しかし此度の一件はあまりにも単純すぎる。目に見えるものだけを捉え続ければ、いずれ不和が生じてしまうだろう。しかし、そうなった段階では最早後戻りが効かないのだ。国が国として動けば、それは国の意思。決して誤りであってはならない、明確な意思表明。少なくとも、王はそう考えているのだろう。故に、この一件は私が責任を持って内密に処理しなければならない。グランデルが誤らぬよう、誤っても後戻りが効くよう、私が私の一存を以て全てを見定める。そうしなければ間違いなく国家間の争いに発展するからな」
「え、ええ、と……」
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