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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
潜入3
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「ははは、キョウヤくんみてぇな腕の良い刺青師がいなくなったら、俺らみてぇなのは困るからねぇ。また今度新しいの彫って貰おうと思ってるから、良い図案を考えておいてくれよ」
「喜んで。それでは、次にいらっしゃるときまでにいくつかお客様に似合いそうな図案を考えておきますね」
「よろしく頼むよ」
機嫌が良さそうな顔で笑った客が、それじゃあ、と言って店の戸を潜り出て行く。その背中を見送ってから、店主は深々と溜息をついてソファに沈み込んだ。
あの男のことはこれまでも厄介だと思っていたが、ここまで面倒な人間だとは思っていなかった。何よりも正体が一向に掴めず、出てくる情報全てが男の怪しさを増幅させるものばかりである。先程の客の忠告がなくとも、あんな得体の知れない男と関わるだなんて願い下げだった。しかし、
カラン、と、玄関のベルが鳴る。嫌な予感と共にそちらに目をやれば、案の定、あの男が立っていた。
「おや、先程の彼はお帰りになったのかな?」
「はい。貴方は忘れ物ですか?」
「ああ、いや、ふと思い立ってな。店主殿をお誘いしに来たのだ」
「……誘いに?」
明らかに訝しむような顔を向けた店主に、男がお決まりになった人当たりの良い笑顔を浮かべる。
「ああ。今宵、教えて貰った場所に遊びに行こうと思っているのだが、良ければご一緒にいかがだろうか?」
「お誘い有難うございます。ですが先程のお客様に新しい図案をご注文頂きまして、暫くは忙しくなりますので」
「ふむ。それは残念だが、致し方あるまい。それでは一人で遊んでくるとするかな」
本当に残念だと思っているのかもよく判らないが、兎に角男はそう言うだけ言って、やはり思った以上にすんなりと引き下がった。確証が持てない以上何も言えないが、少年にはどうしても、男が今夜裏カジノとやらに行くことを、わざわざ自分に宣言しに来たような気がして仕方がなかった。しかし、それを自分に宣言したところで何があるとも思えない。では、一体何のために……?
考えようとした少年だったが、すぐにその思考を止めてしまう。あんなどうでも良い男に使う時間が勿体ないからだ。そもそも、あの男の考えが判ったところでどうということもない。結局は、天ヶ谷鏡哉という個に対する不利益さえなければ、関係のない話なのだから。
こうして、全てを見なかったこと聞かなかったことにしながら、少年は日常へと戻って行ったのだった。
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