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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
潜入11
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「失礼ながら、お客様でしょうか?」
護衛兵の内の一人が口を開く。それにしては随分と粗末な格好をしているが、という目で見てきた彼に、男は肩を竦めて見せた。
「少なくとも、上にいたバーテンダーにここを案内された以上は客なのだろうよ。サービスでエル・アウレアのような上等な酒を貰ってしまった以上、立ち寄らずに帰るのも無粋だと思ったのだが」
お邪魔なようなら帰るとしようか、と続けた男に、護衛兵が慌てて頭を下げる。
「失礼致しました。どうぞお入りください」
重々しい音を立てて扉が開かれ、その招きに応じた男が中へ入る。すると、入った先にはまた、同じような扉が設置されていた。
「ほう、二重扉か」
「こちらのお客様方がお楽しみなっているお声が漏れては、上でお酒を嗜まれているお客様にご迷惑ですので」
「なるほど。素晴らしい配慮だな」
感心したように頷いた男の背後で、入ってきた扉が閉まる。次いで、護衛兵によって、向かう先である正面の扉が開かれた。
途端、耳に飛び込んでくる歓声。勿論それは、男に向けられたものではない。地下に造られた遊技場で遊ぶ人々の声である。じゃらじゃらとコインが積まれる音や、ルーレットが回る音。そう、紛れもなくここは、非合法に運営されている裏カジノであった。
「どうぞ、ごゆっくりお楽しみくださいませ」
再び深々と頭を下げた護衛兵が、後方へと下がり、扉が閉まる。それを目端に捉えてから、男は改めて目の前に広がる光景を眺めた。リアンジュナイルの十二の国にある裏カジノは全て回ったという自負のある男だったが、このカジノの大きさは、その中でも最大級の内の一つに数えられるだろう。驚くべきは、この規模のものを恐らくは短期間で設置したであろうことだ。半年ほど前に男が金の国へ来たとき、確かにこのカジノも、上のバーも存在しなかった。だとすれば、半年足らずでここまでのものを造り出したことになる。
それが可能か不可能かで言えば、可能ではあるだろう。しかし、人の手では無理だ。ヒト以外の何かの力を借りなければ、ここまでのものを短期間で造ることはできない。いや、それよりも、もしかするとこの空間自体が異質なのではないだろうか。
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