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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
潜入14
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男が普段と変わらぬ表情のまま見つめる先、大きな手によって扇状に広げられている五枚のカードは、全て縁が赤く彩られており、姫、王子、王妃、王獣、国王を模した絵が描かれていた。赤の国グランデル王国が一揃いになった上、上位から順に階級が揃っている、“赤国”という最上級の大役である。この手札に勝てる役は、四大国である赤青橙緑の王札に銀の王札が加わった“国始”などであるが、さて相手の方はどうか、と視線を上げれば、落ち着いた表情で微笑みを絶やさぬ顔が窺えた。どうやら相手もかなり遊び慣れている人間のようで、その表情から手札のほどを読み取ることは難しい。面白そうに勝負の行方を眺めている周囲の人間も、二人の手札がいかほどのものか、判断しかねているようだった。だが、
(ふむ。有り余るほどに自信に満ちているな。よほど良い手が揃ったと見える)
この男にとっては、関係のない話だった。
人の心というものは、どんなに隠そうとも隠し切れないものだ。呼吸のリズム、瞬きの回数、唇の濡れ具合、指先の僅かな震え、その他様々な身体的特徴を全て逃すことなく見れば、あらゆる生き物のおおよその思考が、手に取るように判る。増してや、男は日常的にそれを行ってきた人間だった。故に、今もはっきりと判る。今目の前にいる相手は、この上ないほどに最上の手を持っているのだと。
このゲームに絶対はない。だが、限りなく絶対に近い手が、ひとつだけ存在する。そして相手は恐らくそれを引き当てた。だとすれば、男が次に取る手はひとつである。
「チェンジはいかがなさいますか?」
ディーラーの言葉に、初老の貴族はわざとらしくゆっくりと首を横に振った。
「私はやめておこう。これで勝負させて貰うよ」
「承知致しました。そちら様は?」
「では、こちらは全てチェンジで」
持っていたカードをすっと机に伏せた男に、周囲が僅かにざわめく。
「おや、全て換えてしまって良いのかね?」
「ええ。残念ながら、あまり良い手ではなかったので」
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