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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎2
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ぱちり、と目を開けて、視界に飛び込んできた白い天井に、少年は混乱した。記憶にある限り、幼い頃から見ていた天井は、暗く薄汚れた茶色であったはずであり、周囲が薄暗い中では黒といっても差し支えないはずである。瞬きもせず天井を凝視して、己の鼓動を十数回聞いたあたりで、ああそうだ、と思い至った。
ここはリアンジュナイル大陸。金の国と呼ばれるギルガルドの、自宅兼店舗の自室であり、あの場所ではない。
小さく息を吐き出し、止めていた呼吸を少しずつ再開して、少年は額を拭った。手汗も酷いが額にも、もっと言うなら全身汗みずくで、布団の中は嫌な湿り気がある。服の張りつく感覚が不快で、少年は少し眉根を寄せた。
カーテンを開けていないのを差し引いても薄暗い室内は、今の時刻が、明らかに少年が普段起床する時間よりも早いと告げている。とは言え、もう一度寝直すという考えは浮かぶ前から却下され、彼は身体を起こしてひとつ溜息をついた。
幼き頃を綴る悪夢は、昨夜のように不定期に少年の眠りを妨げた。起きたときにはもうほとんどが曖昧になっているけれど、夢の中の母の顔が醜く歪み、呪いの言葉と暴力が降り注いだことだけは覚えている。それはとうの昔に終わりを告げた過去だ。今はもう失われてしまったものだ。けれど、まるで忘れることを許さないかのように繰り返されるその夢は、きっと母の遺した呪いで、今も、そして永遠に、解かれないままなのだろう。
ベッドサイドの眼帯を手に取り、手に持ったまま服と下着をタンスから取り出して風呂場へ向かう。傷や火傷やらで醜く引き攣った身体を晒していると、どうしようもなく不安になってくるので、基本的にいつもカラスの行水だ。シャワーを頭から浴びて簡単に汗を流し、すぐに上がる。身に着けるのはいつもの服装。汚い身体を晒すことを厭う少年にとって、風呂上がりというのは薄着をする理由にはならない。
どうしてだか、風呂の間も右眼を終始前髪で隠していた少年は、やはり右眼だけを瞑ったまま、ざっくり髪を拭いて眼帯を着ける。そこまでして、ようやく少年はひとここちついた。
(……どうしようかな)
ひとここちついたは良いが、暗澹たる気分が回復するわけでもない。
少年がいつも活動を開始し始めるのは早くてももう少し日が昇った頃合いからで、逆を言えばイレギュラーなことがない限り、もっと遅くでも事足りるのだ。娯楽らしい娯楽に明るいわけではないし、そもそも気分が沈んでいて、普段以上に積極性を持てない少年は、当然のように時間を持て余した。
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