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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎4
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貿易と錬金術の国ギルガルドで行われる、月に一度の貿易祭。リアンジュナイル一の輸出入量を誇るギルガルド王国では常日頃から盛んに貿易が行われているが、その中でも特に大きいのが、月例開催されている貿易祭なのだ。貿易祭は、滅多に手に入ることのない稀少な品々がやり取りされることで有名である。例えば、以前男がバーで飲んだエル・アウレアなどもそうだ。あの酒が流通するのは、銀の国のごく限られた場所だけで、国外で手に入れられる可能性があるのは、金の国における貿易祭だけである。故に、貿易祭の日は国内外から多くの人が訪れ、賑やかな首都ギルドレッドが一層賑わいを見せるのだった。
「店主殿が行くとしたら、夜の市かな?」
貿易祭は、陽が昇ってから夕刻まで行われる昼の市と、陽が沈んでから日が替わる時間まで行われる夜の市とで構成されており、昼の市では主に一般向けの最終生産物が、夜の市では職人や技術者向けの中間生産物がやり取りされている。
そして、男の言った通り、少年はこの貿易祭に毎月欠かさず顔を出している職人の一人だった。
夜の市では、普段はお目にかかれないような稀少で美しい染料が手に入るのだ。少年は人混みがとても苦手だったが、夜の市で購入できる染料は、それを押してでも手に入れたいと思えるものが多い。だから、今夜も当然、市場に出向くつもりであった。
「はい。なので、今日は少し早めに店を閉める予定です」
頷けば、男は何故か嬉しそうに笑う。
「そうか。それはちょうど良かった。私も是非名高い貿易祭を覗こうと思っているのだが、夜の市は職人や商人の証書を持っている者とその同行人しか入れないと聞く」
そこまで聞いたところで、次の言葉を察してしまった少年はいっそ耳を塞いでしまいたい思いに駆られたが、恐らくはそれに気づいているだろう男は気にした素振りもなく、胡散臭いほどに純粋な笑みを湛えてみせた。
「ここはひとつ、店主殿の同行人として連れて行っては貰えないだろうか。勿論、荷物持ちでもなんでもしよう」
予想通りの言葉に、しかし咄嗟に上手い断り文句が思い浮かばなかった少年は、渋々頷くことしかできないのであった。
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