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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎6
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男が再び店を訪ねて来たのは、日が沈む少し前だった。扉を叩く音にひとつ溜息を吐き出して外に出れば、男が笑顔を見せる。
「それでは、よろしくお願いする」
「……はい。でも、僕はそんなに長居はできないと思うのですが」
「何故だ? 折角の貿易祭だと言うのに」
「人混みは苦手で……」
相も変わらずの人工めいた笑顔を浮かべてそう答えた少年に、男はそうかと頷いて歩き出した。
恐らくは、少年の歩幅に合わせて普段よりゆっくりと歩いてくれているのだろう。隣を進む大柄な男をそっと見上げれば、男はずっとこちらを見ていたのか、ばちりと目が合った。慌てて視線を下げた少年は、やはり居心地の悪さを感じずにはいられない。
そもそも誰かと買い物に行くなど、何年ぶりだろう。だいぶ昔のそれだって、自分に刺青の刺し方を教えてくれた師匠とだった気がする。もしかすると、赤の他人と買い物に行ったことなどなかったかもしれない。
そんなことを考えながら歩く少年だったが、夜の市に着くと、僅かだが顔を綻ばせた。人混みは苦手だが、夜の市で出会える染料には決まって極上のものがあるのだ。それだけでなく、昔から美しいものに並々ならぬ執着を持ちやすい少年にとって、リアンジュナイル大陸中からかき集められた稀少な材料たちは、とても魅力的だった。
貿易祭が行われる会場はとても広い。一応屋外ではあるが、貿易祭を行うために建造された大きな屋根があり、雨を凌げる造りになっている。また、屋根にはギルガルド国の錬金術を駆使した装置が設置されていて、それにより、屋根の下の空間は一定の温度に保たれ、外からの風を遮るようになっていた。
会場はいくつかのフロアに分かれていて、出品者たちはそれぞれに与えられたスペースに簡易的なブースを設けていた。客は皆己の求める品物があるフロアに行き、思い思いの買い物を楽しむのだ。とにかく出品側も購入側も人が多いため、人気の品を扱っているブースなどでは、長蛇の列ができあがることも珍しくはない。
少年の目的は飽くまでも染料だから、取り敢えずは真っ先に染料のフロアに向かうが、道中でちらりと窺える品々は、どうやら普段にも増して珍しいものが多いようだ。これなら、少しだけなら長居して他のフロアを覗くのも良いかもしれない、という考えすらちらついた。
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