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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎10
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黒い、影のような人型。だが、一見すると確かに巨大な人にも見えるそれは、肩から伸びる腕とは別に、脇腹のあたりから生えるもう一対の腕を持っていた。四本の手それぞれに人間を掴んでいるそれは、何がおかしいのか、巨体を揺らして笑っている。そして次の瞬間、ゆうに男の三倍はあろう巨体からは想像できない速さで跳躍した。高く跳んだ先で、掴んでいた人間を人混みに向かって投げつける。化け物の力で握られた脆い身体は、既にいたるところがおかしな方向に捻じ曲がっており、それをぶつけられた人々は、更に狂ったような金切り声をあげた。
人々の悲鳴に、化け物はことさら嬉しそうに、耳障りな酷い笑い声を上げた。そのまま落下の勢いを利用して人混みの中心に着地し、店と数人を巻き込んで踏み潰す。骨が折れ、肉が潰される音と、喧騒。それに混じり、生臭い鉄錆の臭いが、むっと男の鼻をついた。
これはまずい。会場は既に大混乱に陥っており、これでは落ち着いて状況を把握することすらできない。耳に届く悲鳴の発生源はここだけではなく、男が予想するに、会場の各地で化け物が出現しているのだろう。
いや、それよりも、衛兵は何をしているのだろうか。大きな交易の場である以上、警備もことさら厳重にしいているはずだ。実際、会場内には何人もの衛兵が控えていた。だが、少なくともこの場所には衛兵の姿が見えない。
これはつまり、会場に置いている衛兵だけでは処理しきれないほどに化け物の数が多い、という可能性を示唆していた。
男はさっと近くの店に目を走らせた。そして、少し離れた店に華美な装飾が施された剣が飾られているのを見つけ、駆け寄る。店の中にはまだ商人が残っていたが、男は気にせずに剣を引っ掴んだ。
「貰うぞ!」
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