アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎11
-
懐から適当に出した金貨数枚を店に投げ、男は人々の隙間を縫うようにして駆け出した。まるで人々の動きを予測しているかのように、人混みの中を器用に進んで行く。向かう先に居る化け物に目をやれば、どうやら獲物を踏み潰す行為が気に入ったらしく、軽快に跳んでは人々を潰して遊んでいるようだった。
(とにかく、人々の逃げる道を作ってやらねば)
ようやく近くまで辿り着いた男の目の前で、化け物が再び跳躍しようと身を屈めた。だが、巨体が地を離れるより速く、男は前方を目指して強く地面を蹴った。化け物の胴を一閃のうちに斬り捨てようと、剣が振るわれる。しかし、
狙い通り化け物の腹に当たった剣は、だが、その皮膚を切り裂くことができなかった。硬いゴムのような感触が剣を通して手に伝わり、男はすぐさま戦術を切り替えた。本当は斬り捨てるつもりだったが、どうやら今この瞬間にそれをするのは難しいようだ。それならばと、剣を押し当てた勢いのまま力任せに腕を振りぬく。
男の膂力に押された巨体が、ぐらりと傾いた。が、それまでである。さすがの男も己の数倍の体重を転がすことはできなかったようだ。だが化け物がたたらを踏んだ隙に、彼は体勢を整えるべく、一度巨体から距離を取った。
ちらりと視線を巡らせれば、周囲には震える人々。そして、化け物に一人向かう男に対する、明らかな期待の目。
困ったことに、これは割と最悪の状況である。これだけ注目を浴びてしまうと、折角かけ直してもらった目くらましも余り役に立たないかもしれない。だがしかし、残念ながら、だからといって何もしない訳にもいかなかった。
「致し方あるまい。居るな? 火霊」
小声で語りかければ、男の意図を察した炎の精霊が、握った剣の刀身に僅かに纏わりつく。
いくら装飾が美しかろうと、所詮は客寄せ展示用の剣だ。化け物の類を斬れないのも仕方がないだろう。リアンジュナイルに住む魔物でも、退魔の効果などを付与した武器でなければ傷一つつけられないものが少なくはない。恐らくは、眼前のこの化け物も、その類の防御特性を持った生き物なのだろう。この場に男の剣があれば事足りる話だったのだが、残念ながらあれは宿に置いて来てしまった。
だが、刀身に魔法を付与するならば、疑似的に退魔の作用を発揮することも可能だろう。この剣は魔法付与に適したエンチャントウェポンではないようだから、そこまで長持ちはしないだろうが、それでもないよりは良い。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
47 / 228