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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎13
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取り敢えず、このまま人に揉まれていても仕方がない。そう思った彼は、近場にある店の布張りの屋根に跳び乗った。男の体重を支えるには若干心許ないが、少しの間であれば耐えてくれるだろう。
そうして改めて辺りを見渡してみて、男は少し顔を顰めた。
先ほど魔物が出現した辺りに、魔導陣が光っていたのだ。何の前触れもなく魔物が現れたことに疑問を抱いていた男だったが、これで合点が行った。魔導に詳しくない男には、あの魔導陣が持つ正確な効果は判らないが、魔物を召喚する召喚陣のようなものだという解釈で、概ね間違いないだろう。つまりこれは、何者かが意図的に引き起こした事件なのだ。
似たような陣は、きっと多く仕込まれていたのだろう。会場の至る所で、火の手が上がっている。だが、それだけではなかった。驚いたことに、遥か遠く、恐らくは首都ギルドレッドの最端に近いあたりでも、僅かだが燃えるような赤色が見える。
「風霊。あれは何だ」
男の声に、風霊が囁く。
曰く、貿易祭で事件が起こる少し前に、首都の外れの四方で火の手が上がったらしい。風霊も把握しきっている訳ではないようだが、やはりこちらも未知の魔物の出現を伴っている恐れがあると、彼女たちは言った。
「なるほど」
中心部からですら確認できるほど大きな炎が噴き上がっているということは、向こうは向こうで大変なことになっているのだろう。そして、魔物が貿易祭を襲うよりも早くそれが起こったとなれば、当然兵力が割かれるのはあちらである。
つまり、郊外で上がった火の手は囮だったのだ。
そもそも、ギルガルド国王はまだ幼くとも王の器であると男は思っている。その国王の膝元における交易の場で不測の事態が生じたところで、国王直属の近衛兵などの迅速な投入により、混乱はすぐに収束するはずだ。それが、未だに近衛兵が来た様子が見られない。このことから察するに、恐らくは先んじて生じていた四方の戦火の鎮圧に努めたのだろう。大事な貿易祭の最中だ。いくら会場から遠く離れているとは言え、首都を脅かす事件は素早く処理するに限る。故に、金の国王はすぐさま動かせる兵の多くを四方の処理に使ったのではないだろうか。
それに、この距離で判るほどの戦火だ。仮に外れでの襲撃とこちらでの襲撃が同時に起こった所で、全てを対処しきれるほどの兵力を集めるのにはそれなりの時間を要するだろう。
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