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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎17
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フロア全体を回り、少年は買い物を終えて安堵の息を漏らした。特に、在庫が少なくなっていた緋色の染料を売り切れ前に買うことができたのは行幸だ。月一の常連となっているその店の緋色は発色が良く、日頃から幸運とは言い難い少年が店に辿り着く頃には、売り切れてしまっているということも少なくなかった。
今日の買い物は比較的上手くいった。足りないものは最低限買い足せたし、何よりも、一角獣の染料という稀少品まで購入できたのだ。おかげで、多少は残ると思っていた財布の中身がすっからかんだが、少年の心は満足感で溢れていた。
もうほとんど何を買うこともできないけれど、折角の市場である。美しいものがたくさん置いてあるこの場を、残金がないのを理由に去るのは少し勿体ない。少年はまだ染料のフロアしか見ていないが、他のフロアには色とりどりの反物や加工前の宝石、珍しい薬草の類や魔術道具に適した金属のほか、滅多に手に入ることのない食材などなど、あらゆるものが売りに出されているのだから。
人混みは気分の良いものではないけれど、綺麗なものに見惚れていればそこまで気にかかることでもないだろう。
帰宅しようと思える時間まで、明るい気分のまま市場を眺めて回ることができれば――そこまで考えて、ふと意識にひとりの男の姿が割り込んだ。姿といっても、その見た目は思い出そうにも曖昧で、どんな特徴であったかを口にすることもできないのだけれど。
そうだ、そういえば、あの男を連れてきているのだった。その事実を思い出して、少年は口元をマフラーに埋もれさせたまま、少しだけ口をへの字に曲げた。
あの、よく判らない男。何を考えているのかも一体何者なのかも、何が目的で付きまとってくるのかもさっぱりと判らず、また判りたくもないあの男は、別行動をしているとはいえ、現在一応仮にも少年の連れ添いなのだ。
中央の噴水で合流、だとか言っていただろうか。その時はさっさと買い物に行きたくて話半分にしか聞いていなかったが、よく考えてみれば場所は決めていても時間を決めていない気がする。集合するにしても、一体いつ噴水に向かえばあの男はいるのだろう。
今更気付いた落ち度に少年は考える。と言っても、この場合は果たして男と少年のどちらに落ち度があったのかは悩ましいところだ。それもあってか、少しの間考えて、けれど彼は、取り敢えず己の都合を優先させることにした。つまり、この夜市をもう少し回ってみよう、という結論に落ち着いたのだ。
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