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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎18
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万一男が既に噴水の所にいて少年のことを待っていようとも、それはそれで致し方のない話だ。荷物持ちをすると言っていた以上、少年に付き合うつもりがあったのだろうから、少年と一緒に市場を回るか、その場で少年を待っているかの違いだけで、少年のために時間を使うことに変わりはない。それならば、どちらだって構わないではないか。それに、なるべく噴水から近い店を回るようにすれば、男が探せば自分を見つけることができるだろう。
薄情かもしれないが、基本的に少年は他人に対して興味がない性質だ。まだ存命の相手に限れば、少年が身内と認識している存在は(本人に言ったら恐らく彼女は顔を聾めるだろうが)自分に刺青を教えてくれた己の師ひとりである。生きる術を与えてくれたその師匠に対しては素直に感謝し、大切な人だという認識はあるものの、それ以外の存在、例えば顧客だとかは、店に利益をもたらしてくれる存在として大事だとは思っていても、個人としてはほとんど認識していない。必要があるから覚えてはいるが、人というよりも客というモノを覚えているようなものだ。これで腕が半端ならば顰蹙のひとつも買うことがあるかもしれないが、幸いにも少年の腕は師匠が独り立ちを許し、放り出した程度には上等で、呼吸をするように表面を繕う少年は、そこまでの内面を客に悟らせることはなかった。
客商売として重要な相手ですらそうだというのに、件の男は客ですらないどころか半分邪魔をしに来ているようなものだ。まともな情があるわけもない。いっそ客にでもなってくれれば記号として薄っぺらに認識できるのだが、残念ながらそうはあってくれないあの男は、店にいるだけで異物感があって落ち着かない。そうかといって客になられたらそれはそれで、あのこちらを見透かしているような男と長く関わりを持つ羽目になるのは憂鬱なのだが……。
沈み込んできた気分を和らげようと、ため息を飲み込んだ少年は袋から小瓶を取り出した。中身は勿論、一角獣の粉が揺れる真珠色の染料である。
ああ、なんて綺麗だろう。
少年の冷めた目が、とろりととろける。彼にとって美しいものは素晴らしいものであり、それを見るだけで視界が狭まって、周囲の音が小さくなってしまう。虹のような真珠色は、そのまま使っても良いが、他の色に混ぜて使用しても見事に輝いてくれることだろう。
光りの加減で色を変える真珠をもっと楽しみたくて、少年は天井のライトへと小瓶を掲げる。煌めく色合いはきっと、このような人工の光ではなく太陽の下での方が、もっとずっと美しいに違いない。
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