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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎22
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流されまいと抗い、前へ前へという気持ちとは裏腹に、身体は思うように進んでくれはしなかった。奥に追いやられないようにするのが精一杯で、進めたかと思えば押し返される。それでも少年は止まらない。止まることなどできるわけもない。
そうして幾度蹴られ殴られたことだろう。急に周囲が広くなった少年は、ようやっと思うまま前に走ることができた。先程眼帯を落とした場所まで辿り着いてしまえば、目的の物は思っていたよりも簡単に見つけられた。明かりの乏しい空間に暗い色の眼帯は沈んでいて、溶けてなくなってしまうのではないかという恐怖に駆られ、走り寄った少年は殆ど転ぶようにして手に掴んだ。床に打ち付けられた膝だけでなく、全身いたるところに痛みがあるが、それより何より安堵が勝る。
踏みにじられ倒した布は随分と酷い有様になってしまっていたが、右目を隠すくらいの役目は果たしてくれるだろう。
「…………よかった……」
ぎゅうと目を瞑って、殆ど吐息のような声でそう呟き、震える手がくたびれきった眼帯を宝物でも抱えるかのように握り締める。
早く目を隠さなければ。深い安堵と未だ残る恐怖に身を沈めている少年は、それにばかり気を取られ、己の置かれた現状に、取り巻く周囲に何ひとつ意識がいっていなかった。変に静けさのある空間にも、己の口の中に滲む以上に強い鉄錆の臭いが近づいていることにも、何ひとつ。
不意に、質量のある何かが地面に転がる音が耳を掠めた。眼帯に触れている安堵感のまま、何気なしに音のした方に視線をやった少年は、恐怖に見開かれた双眸と目が合った。
それがなんであるかを認識するのに、瞬き三度ほどは要しただろうか。まるで物のように転がる塊が捩じ切られた人の頭であることを理解するのと、黒い何かがそれを踏み潰すのが、ほぼ同時だった。
呆然とする少年の前で、飛び散った脳漿やら血液やらが、汚れた地面をさらに汚す。踏まれた拍子に眼窩から飛び出した潰れかけの眼球が、勢いよく少年の頬に当たって落ちた。
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