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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎24
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潮が引いていくように表情が消え失せた少年の、纏う雰囲気がにわかに変わる。水分を多く含む瞳が急速に乾き、カッと音がしそうなほどに開いた瞳孔に、先程とはまったく別の色が乗った。
つい数瞬前までは、彼は確かに嬲られ屠られるのを待つだけの虫だったはずだ。だがこの瞬間、それは急激な変化を見せた。それが一体どういう変化なのかを判ずるには余りにも短い時間。しかし、纏う空気を変え、腕を振り上げた少年に、前に立つ魔物は何を感じたのか。獲物の反応を愉しむための動きが、不意に仕留めるためのそれになり、高く掲げられた刃が勢いよく少年に振り下ろされる――そのはずであった。
突如、割り込むようにして、凄まじい勢いで燃え盛る炎が横切った。
魔物を浚い焼き尽くしていく炎に、耳を塞ぎたくなるような醜い断末魔が響く。魔物を骨まで焼いてもなお猛り狂う豪炎は、少年の顔を熱気で焼きながら、その黒髪を吹き散らした。
永遠に続くかとすら思えた金属質な悲鳴は、しかし圧倒的な業火の前に灰と化した。すると、危うげに変質した少年の雰囲気が、まるで炎に焼き消されたかのように元のものへと戻っていく。そして、中途半端に片手を上げたまま、少年は再び硬直してしまった。そんな彼の黒髪を、なおも熱風が散らす。そのせいで覆い隠すものがなくなった右目が、熱気を孕んだ空気に惜しげなく晒された。
それは、疑いようもなく、異形の目だった。
左目は、確かに人間のそれだ。白くあるべき場所が白く、虹彩が黒い。だが、彼の右目はそうではなかった。左目と同じであったならば白くあるべき部分が黒に染まり、その虹彩も、およそ人にはあり得ない怪しい月のような金色をしている。
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