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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎25
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そんな人ならざる右目を持つ少年の前に、大きな背中が立ちふさがる。魔物との間に、まるで少年を守るように立つその背には、燃える炎そのもののように紅蓮に輝く長髪が揺れていた。比喩ではない。少年の目には、本当に炎のように光を放っているように見えたのだ。触れれば焼かれてしまいそうな、そんな赤色だ。
火の髪の持ち主の周囲を、小人のような赤い何かが踊るように駆け回り跳ね飛んで、その度にぱちりぱちりと鮮やかな火の手が上がる。瞬きの間も惜しいほどに眼前のそれを見つめる少年の顔はどこか恍惚として、爆ぜる炎に照らされていた。
「大丈夫か、店主殿!」
声と共に、燃えるような髪の男が振り返る。もしその声が少年の耳に入っていたならば、それに聞き覚えがあることに気づいたかもしれない。だが、今の少年の耳は音など認識していなかった。
振り返った男と、目が合った。それだけが全てだった。
それは焔だ。周囲を飛ぶ赤や、燃える髪などとは比べ物にならないような、比べるのもおこがましいほどの、煌炎である。太陽を溶かし込んだような金色の瞳の中に、圧倒的な熱量を湛え何もかもを灰燼と帰すような、鮮やかに燃え盛る焔が揺れている。
己を見つめ返す焔の瞳を認識した瞬間に、少年に意識の全てはそれに囚われた。焦げ臭い血の臭い、荒れた夜市の惨状、未だどこかで響く助けを呼ぶ声、身の毛がよだつ魔物の咆哮。そういった、ありとあらゆる無駄なものが、少年の意識から剥離する。削げ落ち剥げて、何も残らない。ただ目の前で煌めく炎以外には、何一つ。
少年はただひたすらに、すべてを忘れて、瞳の中の煌炎に見惚れていた。
――――ああ、なんて美しい。
「…………ぃ……」
意図せずこぼれた言葉は、誰に聞かせるためのものでもない。だが、少年の呟きを拾えなかったことを良しとしなかったらしい男は、小さく首を傾げた。
「今なんと?」
聞こえなかった、と膝を折って顔を寄せてきた男の声は、勿論届いていない。だが、至近距離まで近づいた焔の瞳に、少年は一層とろりとした表情をしてしまう。
「…………きれい……」
それはまるで、絶頂を迎えた娘の甘くとろけきった嬌声のようだった。金の瞳を見つめ、この世でこれ以上に美しいものなど存在しないとでもいうかのように紡がれた言葉に、数拍遅れて、男の目が大きく見開かれる。
途端、少年の目に映る紅蓮がぶわりと輝きを増した。思わず目を細めてしまいそうになるほどの光量が溢れ、男の髪が、瞳が、辺り一帯を灼き尽くしてしまいそうなくらいに爛々と輝く。至近距離でそれを見るや否や、そのあまりの美しさにとうとう脳が処理をしきれなくなり、電池が切れるように、少年は意識を手放してしまった。
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