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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
幕間 揺り籠の魂1
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壁の向こう、揺り籠の中。穏やかな子守唄に満たされ、瞼を押し上げることすらない、恒久の安息所。そこではあらゆる音が止み、風が止み、雨が止み、そして陽の光すら止んでしまう。絶対にして自愛の牢獄。生物の本能が形取る、究極の箱庭。この揺り籠で眠る限り、『彼』の瞼が開くことはなく、産声すら紡いだことのない魂が晒されることはない。『彼』は、生まれ落ちると同時に母親の胎内に引きずり戻された胎児そのものだ。だがしかし、すでに誕生した命が胎児に戻り得ることはなく、故に、『彼』は箱庭に在り、己が死ぬそのときまで、眠りから覚めることはない。
目覚めは危険だ。外は忌避すべき場所だ。『彼』の魂は、晒されたその瞬間から、己が身を焼き尽くしてしまうだろう。『彼』が生きるには、この器はあまりにも脆いのだ。だから、『彼』は『自ら』望んだ。魂の奥の奥。生物が等しく持つべき、正しい本能。それに従い、ただ、生きたいと。幼すぎる願いは、しかしそれと片づけるには余りにも強く、いっそ呪いじみた何かを伴って『彼』をこの牢獄へと招き入れた。
だが『彼』がそれを厭うことはない。『彼』は目覚めないのだから。ただ、母親の腕に抱かれた幼子のような甘さで、微睡みたゆたうだけなのだから。
そこは幾重もの強固な壁に覆われた箱庭だ。『彼』のためだけに創られた牢獄だ。彼の命を繋ぎ止めてくれる、希望そのものだ。誰の声も届かず、何者にも触れられない、ただ眠り続けるためだけの場所。一度だけ、閉ざされた目が僅かな覚醒の予感を示したこともあったけれど、それでも『彼』は目覚めなかった。僅かばかりの寝言は零したかもしれないけれど、それだけだ。
だと言うのに、
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