アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎28
-
男の明らかな変質に、異形の瞳は何を見たのだろうか。一際大きく目を見開いた少年は、突然力を失ったようにかくりと傾いた。そのまま地面にぶつかりそうになった小さな身体を、男がそっと支えるように抱き寄せる。
少年の顔を見れば、その瞼は閉ざされており、意識を失っているようだった。
「……私は、そんなにも美しいだろうか?」
男の大きな手がするりと少年の頬を滑る。
「そうか。美しいか」
男の髪から、足元から、ふわりふわりと炎が生じ、衣のように揺らぎ始める。それに呼応するように、周囲の火霊たちがぱちぱちと火を弾けさせた。それはまるで何かの誕生を祝う神聖な儀式のように、風に舞う火の粉たちが踊っている。
「お前、名はなんと言ったか」
すぐ近くで魔物の声が聞こえたような気もしたが、男にはそんなくだらないことに意識をやる余裕などなかった。それよりも、今腕に抱いている子の名前を記憶から洗い出すことの方が優先されるべきなのだ。
男が命令どころか意識もしていないのに、身に纏う炎が意思を持ったかのように動いても。それが男を殺そうと向かってきた魔物を焼き払っても。そんなことは些末な出来事にしかすぎなかった。自分をこの魂ごと愛してくれた少年の名に比べれば、そんなもの。
時間にして瞬き数度程度の間だったのだろう。だが、その時間が途方もなく長いもののように感じた。そして、とうとう男は、その機械じみて精巧な記憶から答えを割り出す。そうだ、この幼い店主の名前は、
「……鏡哉」
甘く蕩けきった声で、名が紡がれた。確かな音で発されたそれは、少年と男に何をもたらしただろうか。それは、少年はおろか、男すらも知らないことだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
66 / 228