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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎29
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少年の名を呼んでいっそう輝きを増した煌炎は、しかし始まったときと同じように唐突に輝きを失い出した。燃え上がる炎が徐々に鎮火していくように、男の髪の色がくすんだ赤銅へと戻っていく。そこでようやく、男は自分が何をしにここへ来たのかを思い出した。
「ああ、そうだ。魔導陣を消しに来たのだった」
目的を見失い、目先のことに囚われてしまうなど。こんなことは始めてだ。
「それもこれも、お前のせいか?」
責めるような言葉とは裏腹に、抱いた少年を見下ろす目は酷く優しい。溢れ出る愛おしさのままに黒紫の髪に唇を触れさせれば、灰と埃の匂いが鼻をくすぐった。
「ああ、こんなところに居ては余計に煤を被ってしまうな。すまない、私も少しばかり焦ってしまったのだ。そうではなくても力加減が苦手でな」
意識のない少年に語りかけながら、男は改めて周囲を見渡した。男の計画において重要な役割を果たしてくれるだろう少年の危機に思わず火力過多の炎をぶつけてしまったせいで、辺りは少々焼野原気味である。
「……いや、お前が煤まみれになるのも良くないが、それ以前に店にも火が燃え移っている気がするぞ。これはまずい。後でレクシィにどやされる」
真顔で燃え盛る火を見た男は、次いで片手を振った。
「火霊、早急に店の火を抑えてくれ。というか、何故こんなにもやたらと燃えているのだ。確かにキョウヤを助けろと命じはしたが、こうも広範囲に渡って火の手が回るほどの魔法だっただろうか?」
首を捻る男に、火霊が咎めるように小さく火を弾けさせた。
「なに? 私のせい? 私の炎が暴れて燃やしただと? ……何を言っているか判らんが、私はお前達の力を操っているだけで、私自身に炎を生じさせる能力などないぞ? 故に、私の炎などというものは存在せん」
怪訝そうな顔をした男に、火霊は何か言いたそうな表情こそ見せたものの、諦めたように口を閉ざして炎の鎮火を始めたのだった。
そんな火霊たちの反応に不思議な表情を浮かべてみせた男だったが、まあ、相手は精霊だ。人間の自分には判らない何かがあるのだろう。そう結論づけ、余計な情報はさっさと忘れることにする。
「さて、それでは私は魔導陣の方へ向かうとするか」
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