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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎32
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やれやれ、と息を吐いた男に、火霊たちが指示はまだかという、どこか興奮したような視線を向けてくる。言いたいことは判っている。というか、この状況ではそうせざるを得まい。きらきらした表情で自分を見つめる火霊たちに、男はもう一度溜息をついた。
「では、さっさと壊してしまえ」
そう言った男が、横薙ぎに腕を振るう。すると、男の腕が空を切ったところから炎が生まれ、たちまち大きな渦となって噴水ごと魔導陣を覆い尽くした。もしかしなくても伝統ある噴水だったのだろうが、魔導陣の上にある以上、噴水自体が魔導陣の影響下にある可能性が高い。ならばこうするのが最良だ。
男の召喚した炎に焼かれ、魔導陣から輝きが薄れていく。同時に、絶え間なかった魔物の出現がぱたりと止んだ。それを確認してから、男は楽しそうに躍っている火霊たちに視線を投げた。
「完全な破壊には至っていないが、ここまでしておけば大丈夫だろう。これ以上はいかん。既に私の痕跡が色濃く残ってしまっているだろうからな」
そう言って手を払い、魔導陣の炎を消し去った男が、周辺の火霊に続けて命令を下す。
「良いか、できるだけ魔物が起こした炎に見えるよう、姿を見せないようにしておけ。そして怪しまれぬ程度に徐々に火の手を弱めよ。金の国の兵を焼いたとなれば大事だからな。ああ、私の心配はしなくて良い。剣と魔法がなくとも、攻撃を躱しつつ逃げることくらいは可能だ。どうやら喚び出された魔物たちは、あまり上位の魔物ではないようだからな」
そう言ってから、男は今度は上に視線を投げる。
「風霊、ご苦労だった! 徐々に風の鎖を解除して良い! ただし、できれば私の頭上に瓦礫が落ちることがないように配慮してくれ!」
言われ、風霊たちは心得たように風の拘束を緩め始めた。それにより、かろうじて保たれていた均衡が失われ、屋根に更なるひびが走る。この様子だと、天井が割れて落ちるのは時間の問題だろう。急いだ方が良いな、と呟いた男は、未だ気を失っている少年を両腕に抱え直して、夜闇の中を駆け出した。
こうして、核となる巨大魔導陣をまんまと破壊した男は、駆けつけてきた兵たちと入れ替わるようにして、その場を足早に立ち去ったのであった。
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