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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎33
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意識のない少年を抱いた男は夜市から避難した人々の群れに潜り込むべきか否か思案したが、己にかけられていた目くらましが完全に解けていることを思い出し、大人しく自分が泊まっている宿に帰ることにした。この混乱の最中に取るべき行動ではないとは思ったのだが、恐らくすぐさま設置されるだろう避難所まで誘導されてしまうと、男を知っている人物に遭遇する可能性が高い。折角ここまで正体を隠して進めてきたのだ。それだけは避けたかった。
しかし、かと言ってこの少年をどこか安全な道端に放置する訳にもいかない。いや、夜市を見て回っていたときの男ならば、迷わずにそうしただろう。だが、そのときと今とでは、話が違う。こんなにも大切な存在を、どうして捨て置くことができるだろうか。
擦り傷と煤塗れの小さな身体をひとまずベッドに寝かせてから、男は傍らに置いた椅子に座ってしげしげと少年を眺めた。
こうして寝ている姿だけを見ると、どこにでも居そうな普通の少年だ。だが、対話する中で、彼が人との関わりを極端に嫌う子だということを男は見抜いていたし、あの作り物のような笑みや露出のない服装から、恐らくはその過去に何かしらの原因があるだろうことも察しがついていた。
首にしっかりと巻き付けられているマフラーを緩めれば、まるで誰かに首を絞められたかのような痕があるのが窺える。痛々しいそれに優しく指を這わせれば、少年はびくりと震えて嫌がるように首を竦めた。
「……そうか。怖いか」
呟き、そっとマフラーを戻してから、今度はくるくるとした黒髪に指を差し込む。埃でごわつく髪を梳くように撫でてやれば、どことなく少年の表情が和らいだように見えた。
そんな微かな変化に、男の胸がぎゅうと締め付けられる。傷つき弱った小動物が身を任せてくれたときに似た、けれど決定的に違うこれが、愛おしいという感情なのだろう。切ないような甘いような何かがとろりとろりと零れ、男は酷く優しい目をして少年の寝顔を見つめた。
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