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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎37
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「ところで、夜市で何があったかは覚えているか?」
「え? ええと、……確か、いきなり魔物が襲ってきて、」
そうだ。そのせいで眼帯を落としてしまった。それを探そうと人波に逆らって、それから。
「…………」
眼帯を見つけたところまでは覚えている。だが、その後の記憶がどうにも曖昧だ。なんだか、とても綺麗なものを見たような気がしなくもないのだけれど。もしかするとこれは、夢の中で見た何かとごちゃごちゃになっているのかもしれない。
黙ってしまった少年の頭を、大きな掌がまた撫でてきた。
「覚えていないか。だが無理もない。少々大事だったからな」
「大事、ですか」
「私のような傭兵には慣れた事態だが、お前には刺激が強かったのだろう。といっても、魔物に襲われかけたお前を抱えて逃げたというだけの話だ。やたらと魔物が溢れ返っているのを見たときはどうしたものかと思ったが、それも今は国軍が対処してくれただろうから、安心して良い」
「……つまり、僕は、貴方に助けて貰った……?」
「助けたというほどのことでもないさ。私が焦って手を出しただけだ。……あのまま放っておいても、お前自身でどうにかできたようだったしな」
どこか呟くように付け足されたひとことに、少年は内心で首を傾げつつも、やはりにこりと笑んだまま礼の言葉を口にした。恐らくは命の恩人なのであろう相手に言うにはあまりにも心が籠っていない自覚はあったが、この男が好きではないのだから、許して欲しい。
「……ふむ。自覚はないか」
「なんのことでしょうか?」
「いいや、こちらの話だ」
少年の人工的な微笑みに、優しい微笑みが返される。そしてまた、気味が悪いくらい優しい手つきで頭を撫でられた。
「魔物の排斥自体は完了したようだが、未だ外は騒がしい上に夜中だ。今日はここに泊まっていくか?」
「いえ、これ以上ご迷惑をおかけする訳にはいかないので」
迷惑をかけるかけないはどうでも良いが、他人である男と一緒にいないで済む口実が欲しかった。
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