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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎38
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「そうか。それでは送って行こう」
「え、いや、大丈夫です。ひとりで帰れますから」
「私が送りたいのだ。駄目だろうか?」
「……はぁ」
本当に、どうしたというんだ。向けられる目が昨日までとはまるで違って優しいし、ごく自然というか、最早それが当然であるかのように頭を撫でてくるし、一体何が男を態度をこうまで変えさせたのだろう。
一瞬だけ考え込んでしまった少年だったが、すぐにそれを止める。取り敢えず、自分は早く帰れればそれで良いのだ。得体の知れない男にかまけるのはやめにして、さっさとひとりでいられる空間に戻ろう。
家まで送らせてくれという男の申し出は、断る方が面倒なので大人しく許すことにした。本音を言えば大変迷惑極まりないのだが、まあ仕方がない。
特に何を持っている訳でもないが取り敢えず帰宅の準備を、と自分が何を持っていたかを確認したところで、少年は思わず、あ、と声を漏らした。
「袋、落としちゃった……」
「袋? ああ、何か買ったのか?」
「……はい。まあ、でも、落としてしまったものは仕方ないです」
あの喧騒だ。万が一見つかったとしても、中身は無事ではないだろう。表向きは平気そうに笑ってみせた少年だったが、内心では酷く落ち込んでいた。足りないからと買い足した染料がパーになったことも痛いが、それよりもあの真珠色を失ってしまったことがとても悲しい。あんなに綺麗な染料は見たことがなかったのだ。これまで何度も参加している夜市でも出逢わなかったということは、次にあれを目にできるのはいつになるか判らない。まあでも、こういう不幸に見舞われるのはいつものことだ。慣れている。
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