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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎39
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「何を買ったのだ?」
「ああいえ、染料を少し。そもそもそれが目的でしたので」
にこりと微笑みを絶やさずに言えば、男はどこか考えるような素振りを見せた。
「あの、何か?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
「はぁ」
相変わらず胡散臭い男だという感想を抱きつつ、ベッドから降りて靴を履く。身体中が埃と煤臭いが、この男はこんな状態の自分をベッドに寝かせたのか。後で宿の主人から怒られそうだな、などと他人事のように思ったが、事実他人事なのでどうこうすることもなかった。
「支度はできたか? それでは行こうか」
当然のように差し出された大きな手を凝視してから、少年は男の顔に視線をやってにっこりと微笑んだ。
「はい」
握れとばかりに出された手は見なかったことにして、無視した。
少年が手を握り返さなかったことに男はきょとんとした表情を浮かべたが、別段気にした様子はなく、少年の後を追って部屋を出た。
男が言った通り、夜中だというのに未だに外はざわめきを見せていた。時折衛兵が忙しそうに走っているのが視界に入ってくるあたり、まだまだ事態の収束には時間がかかるのだろうか。
そんな特に必要のない思考をすることで、隣を歩く男の存在をできる限りシャットアウトしようとした少年だったが、しかし男は嫌がらせのように語りかけてくる。
「そういえば、店主殿の名は確か、キョウヤと言ったな?」
「はい」
「それでは、これからはキョウヤと呼んでも良いだろうか?」
「そうですか。構いませんが」
急に名前を呼びたいとは。何を考えているのだろうか。
「そうか、ありがとう」
「いえ」
嬉しそうに言われた礼に、ますます困惑してしまう。これは絶対におかしい。この男が現れてから一週間以上経つが、その間ずっと店主殿とかいう呼び方しかしていなかったし、それ以外の呼び方をしようという素振りすらなかったというのに。
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