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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎43
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「ああ、行ってしまった」
至極残念そうに呟いた男は、小さく息を吐いてから右手をひらりと振った。
「風霊。あと少しの道のりだが、キョウヤを送ってやれ」
近場にいた精霊に命じれば、風が男の頬を掠めてすぐさま走っていく。それを見届けてから、男はのんびりと宿へ戻る道のりを歩き出した。その背を慰めるように滑った風に、男が笑う。
「ああ、怖がらせてしまったなぁ。だが無理もない。キョウヤには正しい私の姿が見えんのだ」
もう一度本当の姿さえ見せれば、彼が自分への恋心を自覚するのは判っている。判っているからこそ、一刻も早く見せてしまいたい。だが、男の置かれた状況がそれを許してはくれなかった。男はこの上なく優秀であるが故に、己の恋のために全てを台無しにするような真似はしなかった。
どうせ、時が来れば隠し通せなくなるのだ。ならばその時まで待てば良いだけのこと。なに、心配することはない。あの子は自分を心の底から愛していて、自分もまた、あの子を深く愛しているのだから。
「そうだ、風霊。少し調べて欲しいことがあるのだが、良いだろうか?」
あの両目が自分だけを映し、もう一度あの愛の言葉を囁いてくれるのを心待ちにしながら、男はとても幸福に満ちた心地で夜道を帰って行ったのだった。
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