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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
ふってわいた幸福3
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何にせよ大変迷惑な話である。一瞬だけ少年の作り笑顔が崩れ、咎めるような目が向けられたが、男に止める様子はなかった。
仕方なく男が店を広げる様子を眺めると、確かに無節操に色々な物が出てくる出てくる。綺麗な蒼玉で飾られた簪に、魔術用の鉱石の屑が詰まった小瓶、香辛料。薄紅の国の特産品である化粧道具まである。どんな買い方をしたらこうも統一性のない買い物ができるのだろうか。
「キョウヤの影響か、染料の類も結構買ってしまってな。だが私に刺青を彫ることはできぬし、使いどころがない」
言いながら、男が染料の詰まった瓶をいくつも机に並べる。なんでまたこんな重い物を、それも大量に買い込んでいるのだろう。馬鹿なのかも知れない。
内心で少し呆れながら男が染料の瓶を並べていくのを眺めていると、ふとその中にある色を見つけ、少年は目を見開いた。
あの、真珠色だ。少年が欲しくて欲しくて堪らなかった、あの色だ。
その瞬間、少年の目はそれに釘付けになった。食い入るように見つめてくる彼に、男が小さく笑う。
「これか? 美しいだろう。一角獣の角の粉末を混ぜ込んであるらしい」
そう言った男が瓶を手に取って揺らして見せた。が、少年は相変わらず染料のみを見ていて、どうやらその耳に男の言葉は届いていないようだった。
ふむ、と呟いた男は、持っていた瓶を少年の目の前にことりと置いてから、残りの品物を並べる作業に戻った。
暫くの間真珠色の染料に見惚れていた少年だったが、はっとして瞬きをする。またやってしまったと思いつつ男を見れば、男もこちらを見ていたのか、目が合った。そのまま、柔く微笑まれる。
「染料に関しては私が持っていても仕方がないし、重くて旅の邪魔にもなる。なので、もしお前が良ければ引き取っては貰えないか?」
「…………はい?」
「勿論金はいらん。私が後先考えずに購入して、それをお前に押し付けようとしているだけなのだから」
「え、いえ、でも、」
改めて机の上を見れば、一角獣の染料を除いても銀貨十枚はするだけの染料が揃っている。それだけでも少年にとっては大金だというのに、それにひと瓶の真珠の染料が加われば、いかほどのものだろうか。たったひと匙で金貨一枚の値打ちがある品だから、ひと瓶ということは、およそ金貨二十枚くらいだろうか。これは、少年が半年働いてようやっと稼げるか稼げないかくらいの額である。
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