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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
ふってわいた幸福5
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「ははは、これは上手く躱されてしまったな。だが、これでお前の時間を一日貰えるのだ。良しとしよう」
言い方がいちいち気持ち悪くて鳥肌が立ってしまいそうだったが、どうにかそれをやり過ごす。こんなことでこの男と一日過ごせるのだろうか、と若干不安になってきた少年をよそに、男は机に広げていた荷物を紙袋に戻し始めた。
「そういえば、キョウヤはこの大陸に来て何年くらいになるのだ?」
「……さあ、どれくらいだったでしょうか」
「見たところ大分馴染んではいるようだが……。魔法は使えるか?」
「いえ、使えません。僕が居た国では、魔法はとても珍しいものだったので」
「ほう、では魔術か」
その言葉にも、少年は首を横に振った。
「魔術も錬金術も、使えません。あまりそういうことに興味がなくて、不勉強なんです」
「おお、そうだったか。まあお前には刺青師としての腕があるからな。問題はないのだろう」
その言葉に、ほんの少しだけ少年が笑う。刺青を褒められるのは素直に嬉しいのだ。自分が唯一胸を張れるものだから。
「しかしそうか、興味がないか。……確かにお前は、自分に密接に関わるもの以外への興味が薄いように見える。ということは、他の国についてもあまり知らぬのか?」
「そう、ですね。一応、隣国である赤と橙の国なら少しだけ知っていますけれど」
「ほう」
「あ、知っていると言っても、赤は鍛冶業、橙は鉱石産業が盛んだとか、赤と金の国は仲が良いとか、その程度の知識で……。お恥ずかしながら、各国の国王陛下の名前すら憶えていないです」
「さすがは技術者だな。やはり産業面には詳しいか」
詳しいも何も各国の得意産業くらいは多分常識で、寧ろ自国の王以外の王の名すら知らない自分は世間知らずである自覚が少年にはあるのだが、男は感心したようにそう言った。
「まあ、国王の名など知ったところで何の益もないし、政治にしても、知らないからと言って生きていけぬ訳ではないからな。不要な知識と言うこともできるだろう。場所によっては政治を知らぬが故に損をすることもあるだろうが、金の国は良く統治されている。そこまでの損失を被ることもそうあるまい」
「はぁ」
まるで金の国を評価するような物言いに、なんだか随分偉そうなことを言う人だな、と思った少年だったが、だからといって何がどうということもないので流しておく。
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