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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
デート?7
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何事かと思ってトレーを見ると、そこには見事な意匠で飾られた眼帯が数個並んでいた。小粒の宝石が埋め込まれたものや、とても薄いレースが編み込まれたものなど、様々である。どれもこれも美しいものばかりだったが、少年が一際惹かれたのは、並ぶ眼帯の中ではとても控えめな、黒い革細工の眼帯だった。漆黒よりも幾分か柔らかな黒の表面には、黄色味がかった灰色の糸で蝶の刺繍が施されている。分野は違うものの、同じ職人として判る。これは、ひと針ひと針丁寧に糸を刺して作られたものだ。大きめの刺繍がひとつだけ、という眼帯のデザイン自体はとてもシンプルであったが、施されている刺繍はそんな言葉では片づけられないほどの芸術性を感じさせてくれた。
「……綺麗」
だから、不意にその言葉がついて出てしまった。真珠色の染料を見たときのような蕩ける感情ではなく、これは一人の職人として抱いた、純粋な尊敬の念だ。これほどのものを縫い付けるためには、どれだけの研鑽を積まねばならないのだろうか。
まじまじと眼帯を見て呟いた少年に、男が笑みを深くして、蝶の眼帯を手に取る。
「それでは、これを買い取らせて貰おう。すまないが、これで支払いを頼む。それから、残りの商品は返しておいてくれ」
余った金は好きに使ってくれて構わないから、と金の入った布袋を店員の手に持たせた男に、少年が慌てて声を掛ける。
「あ、あの、」
「これが一番の気に入りなのだろう?」
「え、は、はあ」
「ではこれもプレゼントだ」
にこり。
微笑まれ、少年はますます困惑してしまう。
高い食事を与えられて、服を買われて、そして眼帯までも贈られてしまう。本当に、この男は一体何がしたいのだろう。
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