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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
不審な訪問者12
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突然並べ立てられた言葉達と、その最後に飛び出た国家間の争いというフレーズに、少年が目に見えて動揺する。
「うん? ああ、お前も王が間違ったと思うか? 奇遇だな。私も常にそう思って生きている。特に今回の件は見誤った節があるのではないだろうか。あらかじめ予測がついていたのなら、敢えて乗る必要はなかったのではないだろうか。王が挑発を甘んじて受け入れることすらも策の内に入っていたのだとしたら、少なくとも本件に関しては王が初手を誤ったと断ずるより他ない」
男の発言に、少なからず少年は驚いた。グランデル王国のことはあまり知らないが、それでも自国と友好関係にある国のことだ。簡単なお国事情のような話くらいなら、風の噂で聞いたことがある。
曰く、全ての民が敬い、全ての民が無条件に信頼を寄せる、奇跡のような王だと。国王としての才は、連合国の中でも最も優れているだろうと。
尤も、ここギルガルド王国の幼い王も半ばグランデル国王を盲信している節があるらしい、という話も同時に聞いている。そんな国で聞こえる噂話だ。事実以上にグランデルを持ち上げるような話に脚色されていると考えるのが妥当だろう。
それでも、こうも堂々と自国の王を非難するような発言をする者が存在するというのは、純粋に驚きだった。グランデル王国という、恐らく王を崇拝する人口が多い祖国の地を離れたが故に口が緩くなっているだけかも知れないが、これまでの男の様子を考えると、そう決めつけて良いかは甚だ疑問である。もしかすると、目の前のこの男は、グランデル王国において、国王を糾弾する発言ができるほどの地位を持っている者なのかも知れない。そう考えれば、質素な格好や気さくな言動に不釣り合いな漂う気品も、納得がいくような気がする。
「まあ、王の初手が誤っていたとしても、その誤りを誤りでなくすために、私が此処に居るのだ。随分と厄介な話になりそうだが、致し方あるまいよ」
「……貴方、は、一体、何者なんですか……?」
最初に会ったときよりも更に警戒が強い、いっそ敵対心すら窺わせるような声が、男の耳を叩く。だが、やはり男は気にした素振りも見せず、にこりと人好きのする笑みを浮かべた。
「これは参った、喋りすぎてしまったな。できれば、今聞いたことは忘れて貰えると有難い。……そうだな。私が私のことを語らぬが故に店主殿を不安にさせてしまっているようだったから、私なりに店主殿に歩み寄るために妥協した結果、だと思って貰えれば」
浮かべた笑みをそのままに、男が少年に向かって大きな手を差し出す。
「どうだろう。これで少しは、私と仲良くしてくれる気になっただろうか」
出されたそれは握手を求めているのだろうと判ったが、少年は、どうしてもこの不可解な男の手を握る気には、なれなかった。
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