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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
潜入4
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刺青屋『水月』からそう遠くはない安宿の一室。そこに、男は居た。窓を解放したままベッドに座っていた男が、ふと顔を上げる。その視線の先、夕暮れ時のオレンジに染まった空の向こうから、西日に照らされより一層その身を燃えるような色に染めた、赤い鳥が真っ直ぐに飛んで来ていた。
美しい尾羽を日に晒しながら優雅に飛んで来た鳥は、迷うことなく男のいる窓辺にやってきた。まるで許しを請うように見上げてくる鳥に向かって男が手を差し出せば、赤い鳥は素直にその手にとまる。ぴぴぴ、と美しい音色で歌うように鳴く鳥を撫でてやった男は、鳥の脚にくくりつけられている筒から紙を出して軽く目を通すと、ふむ、と呟いた。
「あちらはあちらでうまくやっているようだな。いや、心配はしておらんよ。うまくやってくれる確信があるからこその采配だ。しかし、私の方がどうにもなぁ。丁度良い子山羊は見つけたものの、なかなかどうして手強い。今日も誘ってみたのだが、やはりついて来てはくれなんだ。さて、どうしたものか」
思案するような素振りを見せた男の頬に自分の頬を摺り寄せた鳥が、ぴぴ、と囀る。
「ああ、そうだな。取り敢えずは単身、乗り込んでみようか。些か撒き餌不足な節はあるが、それでもそこそこ大きな釣り針を仕掛けられただろう。あとは、私自らが食いでのある撒き餌として機能すれば良い話だ」
そう言って微笑んだ男は、もう一度鳥の頭をひと撫でしてから、先程自分が目を通したものとは別の紙を用意して、それを筒に入れた。
「それでは、これを。確実に届けてくれ。お前ならば、闇夜も照らしながら進めるだろう?」
男の言葉に、任せろと言うようにぴぃと鳴いた鳥が、その腕から飛び立つ。夕闇に消えていく炎のような鳥の姿を見送ってから、男はゆっくりとベッドに寝転んだ。
裏カジノが開催されるであろう深夜まで、まだまだ時間がある。それまでに一眠りしておこうという訳だ。安っぽいベッドは、男の巨躯が横たわるとぎしぎしと不安になるような音を立てたが、男は別段気にした様子もない。安宿生活には慣れているので、寝返りの度に軋む古ぼけたベッドにも馴染みがあるのだ。酷いときは、寝ている間にベッドが壊れて床に転がったこともある。あのときは宿の主人にしこたま怒られたものだ。壊してしまった備品の修繕費やら何やらを払わされた挙句に宿を追い出され、確かそのときは結局野宿で凌いだような覚えがある。まあそうなったらそうなったで良いのだ。男は野宿にも非常に慣れているのだから。
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