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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
潜入7
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「これは、参りました。お客様は大変目利きでいらっしゃる。……ここには、お酒を飲みに?」
「まあ、そうだな」
「それはそれは」
言いながら、男がエル・アウレアと呼ばれた瓶を手に取って、静かに持ってくる。そして男の目の前に赤い布で底まで覆われたグラスを置いてから、瓶を傾けて中身を注いだ。
「良いのか? 貴重な品だろうに」
「お飲みになりたいとおっしゃったのはお客様ではないですか。ああ、氷ですが、」
「山頂の氷は溶けることのない氷。特殊な技法で液体にした後も、未だその温度は氷点下百度を保っている。……火霊の炎で温めながら飲むのが決まりだったな?」
「本当に、よく御存じで」
そう言って、バーテンダーはグラスを赤い布で覆ってから、男の元へと滑らせた。
「氷点下百度に耐えられる特殊なグラスの周りを、火霊を纏わせた布で覆ってあります。これでしたら、丁度良い温度でお楽しみ頂けるかと」
「これは至れり尽くせりだ。有難い」
「いえいえ。ここはお客様にお酒をお楽しみ頂く場ですから」
グラスを持って味わうように一口飲んだ男が、ほう、と息をつく。
「やはり、これは最高の酒だな」
「喜んで頂けたのでしたら何よりです。……ときにお客様、失礼ながらお支払のご用意は大丈夫でしょうか? ご存知かとは思いますが、こちら、グラス一杯でも値が張るもので……」
「はっはっはっ、心配せずとも持ち合わせくらいはあるさ。尤も、例えばそこの角に置いてある花瓶はさすがに買えぬがな」
「……なるほど。やはり素晴らしい審美眼。本物、ということでございますね」
す、と目を細めたバーテンダーが、無言で小さなカードを取り出し、男に向かって差し出す。
「……これは?」
「そこの奥にある従業員用の扉に入って頂き、突き当たりにある壁をご覧ください。非常に判りにくいですが、このカードを差し込める箇所があります。もしお客様が刺激的な遊戯がお好きな方でしたら、是非一度ご来場くださいませ」
「……ほう」
「途中で誰かに何か言われましたら、ここであったことをお話頂ければ結構です」
にこやかにそう述べたバーテンダーに笑顔を返しつつ、男は内心で冷静に事態を分析していた。
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