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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎3
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洗面所を出た廊下で棒立ちすること暫く。のろのろと動き出した彼の足は、店舗として使っている方へ動き出した。玄関がそのまま店舗の出入り口であるため、外に出るには店の中を通らないとならないのだ。
取り敢えず外の空気を吸って、もう少し落ち着いてから何をするか考えよう。そう思った少年が玄関の鍵を開け、ドアを内側へ引いた所で、
「おはよう、店主殿」
先を塞ぐかのように、いつもの男が立っていた。
「…………おはようございます。何の用でしょう」
ここ数日顔を見せなかったら、てっきりもうこの店にちょっかいを掛けるのに飽いてくれたのかと思ったが、そうではなかったようだ。常のように表情に微笑みを作りつつも、少年は内心落胆した。
「いや、今日はいつもより早く目が覚めてしまったから、朝の散歩をしていたのだ。この時間は良いな。まだ人も少なく、夜でも賑わっているこの首都が、最も静かになる時間なのだろう。この季節だと少々暗くて寒いのがつらいところだが、それでも、散歩をするにはもってこいだとは思わんか?」
「はあ」
曖昧な返事をした少年だったが、男の言葉が半分ほど嘘であることは判っていた。本当に朝の散歩をしているだけなら、こうやって店の前に突っ立っているはずがない。大方また仕事の邪魔をしに来たのだろう。それにしたって、こんな時間に来られても普通は開いていないのだが。
そう言えば、ここ最近この男は例の裏カジノに入り浸っているらしい、と常連客の誰かが言っていたような気がする。そんなことをいちいち報告されても困るのだが、何故か少年と男が親しい仲になっているという勘違いが広まっているらしく、男が店に来ていないときでも男の話を聞くことが少なからずあった。
「……何かあったのか?」
「はい?」
「少し顔色が悪い。何か気にかかるようなことでも?」
ああ嫌だ。どうしてこの男は、踏み込まれたくない内心にずかずかと土足で立ち入ってくるのだろう。
「いえ、別にそんなことは」
「夢見が悪いときは、ぐっすり眠るのが一番だ。今度安眠できる香でも紹介しようか?」
「……お気遣いありがとうございます。ですが、お気持ちだけで結構です」
相変わらず、この男の言葉は少年の神経をざわつかせる。なんだって顔色の悪さが夢に直結するのだろうか。まさか少年の夢の中まで覗いているなどということはないと思うが、断言しきれないあたり、やはり気持ちが悪い。
「ああ、ところで、ここいらとは違い、もう少し中心部では既に何やら賑わしかったが、今日は月に一度の貿易祭がある日なのだったな。そのせいだろうか」
言われ、はたと少年は思い出した。悪夢のせいですっかり頭から飛んでいたが、そうだ。今日は貿易祭の日である。
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