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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎30
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首都郊外近くの全ての場所で火霊の手助けがあることを考えると、そろそろ多くの兵がここへと集まり出すことだろう。そうでなくても、金の王の独断で咄嗟に動かすことは叶わなかった軍の手配が済む頃合いだ。軍に見つかると色々と都合の悪い男に残された時間は、あまりなかった。
少年を左腕に抱いた男は、右手に握った剣を構えて走り出した。中央の広場はもうすぐだ。だが案の定、中心に向かえば向かうほど魔物の数が増える。それら全てを相手にしても良いのだが、あまりそれにばかりかまけていると軍が到着してしまう。そう考え、立ちふさがる魔物だけを斬り伏せることにした男だったが、ここでまた問題が生じた。
上空から滑空して襲ってきた翼のある魔物の鉤爪を剣で受け止めた瞬間、握っていた剣がどろりと溶けてしまったのだ。
(しまった、魔力を籠めすぎたか)
男が使っていたのは、所詮ただの剣だ。魔法憑依に適したエンチャントウェポンではない以上、魔法に耐えられる造りをしていない。一応注ぐ魔力をでき得る限り抑えていたのだが、元々細かな力の調整が苦手な男である。魔力調整の達人であれば一日くらい保たせることも可能だったのだろうが、男の力量ではこれが限界のようだ。火霊魔法に負けてどろどろに融けてしまった剣を投げ捨てつつ、男は盛大に溜息を吐いた。
(こと戦闘において魔法を使用するのは好かんのだが)
男は魔法師ではなく戦士である。先ほど少年を助けたときのような切羽詰まった状況でもない限り、他者との戦いに補助以上の魔法を使用するのを好むタイプではなかったが、致し方ない。
剣を捨てた右腕を嫌々と言った風に前に突き出せば、詠唱はおろか精霊を呼ぶことすらしていないというのに、その掌を起点に業火が迸り、一瞬にして眼前の魔物を焼き払ってしまう。
「ああこら! だからやり過ぎだと言うのに!」
これだから火霊魔法は困るのだ、と男が内心で疲れたように呟く。だが、風霊魔法は屋根を支えるのに使ってしまっていて、これ以上のことをさせるとなるとそれなりに魔力を消費してしまうだろう。市街地であることを考えれば、地霊魔法を気軽に使う訳にもいかない。そして、男に水霊魔法の適性はない。そうなると、残された手段は火霊魔法しかないのである。それに、男の魔法適性が最も高いのも火霊魔法なのだから、戦闘に用いるのならばそれを選択するのが最善だ。
だが、これには難点がある。火霊魔法は男の力ではなく火霊の力によるものな上、男の数少ない楽しみである戦いが呆気なく終わってしまうのだ。己のものではない圧倒的な力で勝つほど虚しいことはない。男が戦いを好かない性格をしていればまた話は別だったかもしれないが、己の剣の腕に自信を持っている男は、できることなら自分の手で勝利を得たかった。
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